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スベり高等学校 ④ #毎週ショートショートnote

 彼は動揺を隠そうとした。

「俺が次期校長? お義父さんはキミの弟に継がせたいのだろう?」

 うちの学園は同族経営の地元の二番手校だ。一流企業の社員だった彼が左遷されてこの僻地に来たところをアプリで知り合ったのだ。

「校長と言ってもスベり止め高校だわ。あなたの手腕でここをトップ校にしてみない?」
悪くない考えだと、彼は退職し婿養子に収まった。

 高層校舎の校長室からの眺望は絶景だった。
彼に童謡が聞こえた。

『かごめかごめ 

(中略) 

夜明け晩に 

ツルっと亀が 

スベった』


背後の気配と窓ガラスの人影に気づいたときは遅かった。

 社会面に地元の私立校の最上階の窓から理事長の娘婿が足を滑らせ転落した記事が小さく載った。事件の後でそこは近隣の名門高校と合併した。元スベり止め校の理事長で町長の椅子は四男が世襲した。かつて伝統校を不合格になり涙をのんだ卒業生は何食わぬ顔でこれで自分の母校も有名校だとほくそ笑んだという。

私もその一人だった。


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たらはかに様のお題に参加しています。

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