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無理無理童話88

 渡された紙切れには『88』とだけ記されていた。ここは進路相談室の前の待合所だ。偏差値88ならかなり優秀だけど無理無理そんなはずはない。それともIQ88?無理無理。得点が88点? まさか全教科の合計点じゃないわよね?無理無理。私は焦った。何としてもあの人と同じ学舎に行きたい。笑顔が素敵な初恋の人だ。

あの日、彼の愛犬が脱走してうちの庭に迷い込んだ。胴輪がはずれたのだ。犬を捕まえて彼に手渡すと、銀ブチ眼鏡がキラリ。一年上の先輩だった。それ以来私の無理無理な努力が始まった。童話の世界の王子様とお姫様のようなハッピーエンドを目指してひたすら勉強したのだ。

「88番!」
あれ呼ばれてる? 
担当者が書類と私を見くらべている。
「ふむ。前回は犬を助けようとして車に。今回も人間の女子希望か。こっちでだいぶ視力を費やしたようだね」
どうかあの時代のあの場所にもう一度。たとえ無理無理でも。そのとき受付番号の左側の8の字がキラリと光った。

410文字


きのうのおかずの残りがきょうの弁当に⁉


たらはかに様の裏お題に参加しています。

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