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ひと夏の人間ばなれ ①

 夏の日差しはひところに比べてだいぶ和らいでいた。海からの朝風を浴びながら白い皿にサラダを盛りつけ、コーヒーをテラスのテーブルに並べていると水着姿で彼が起きてきた。
「世界三大珍味と言われてるけど、これも毎日続くと少し飽きるよ。世も秋だ」
夫はサラダのレタスに点々と散らばった黒い粒々を見て顔をしかめた。
「ちょっと泳いでくる」
彼は何も口にせず浜辺に向かう。(あらま勿体ない)私は粒々をつまんで口に放り込む。あの人は人間離れした味覚の持ち主といわれている。だけど料理の味付けにはやたらもうるさくて何度もダメ出しをされるのには多少うんざりしていた。でもまさか、それっきり戻ってこないなんてことは全く予想していなかった。

「サメのあいだでも広がっているらしいビーガン食のおかげでキャビアの味にも微妙な違いが出ていると専門家が解説しています。この夏が峠でしょう。ひと夏のブームが去れば彼らもやがて肉食に戻ってくることと思われます」

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たらはかに様のお題に参加しています。

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