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小判食え ③ #シロクマ文芸部

「誕生日のケーキにささったロウソクって無駄だと思いませんか。全体が溶けることはまずありません。バースデーソングが終わるなり火は吹き消され、残りが次回に回されることもないのです。いっそ、ほんの上の部分だけでいいではありませんか。ロウは小さな薔薇の蕾を象り、揺らめく炎がアプリコットジャムを塗ったケーキの表面を黄金色に照らしています。この季節に相応しい裏漉しした栗。まるで波打つ稲穂のようですね」彼は饒舌に語る。「お察しの通り幾重にも重ねられた小判は一番上だけが本物だったのです」
 黒メガネが八重歯を立てれば「サクっ」と香ばしい感触とともにほろほろとくちどけるダクワーズ。かちん。おっとっと。奥歯の金具が外れてしまったかな。顔をしかめて口をもぞもぞさせる男。
「ストップ!」紛れ込んでいた探偵はステッキを振りかざす。
「今口の中にある物を見せていただけますか」盗まれた小判はマフィンの丼のバースデーケーキに隠されていたのだった。

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