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親切な暗殺

「目をつぶってもこの味わいは最高。〇〇〇ンゾーラ大好き!」ママは青筋の立ったチーズ塊を頬張ると叫ぶ。なぜ目を閉じているのかといえば、見つめられたモノが石になってしまうからだ。ボクはイラッとする。ママの魂胆が見え見えだからだ。クラスの仲間が盛り上がっているときボクだけが蚊帳の外なのはあの漫画を読んでいないから。ニヒルなスナイパーが活躍する大人向けのコミックだ。それを読むためどうすればいいのかはわかる。歯医者の待合室なら合法的に読み放題だからそこに行きなさいと。下駄箱の上に健康保険証がさりげなく置かれているという念の入り用だ。その手に乗るものか。今頃コミックのページから弾が撃ち出され診察室を破壊しているはずだ。ボクは理髪店に向かう。
「角刈りにして。あのカット」
だが順番待ちのソファも漫画も怖そうなおじさんに占拠されていた。
くそ、ママに頼まれたな親切過ぎる。
(スナイパーは依頼人が誰であろうと仕事をこなすだけであった)

410文字

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