塩人(しおんちゅ)
遠い先祖が遺してくれた手記。表紙には
『サラリーマンしおしお日記』
とある。はるか昔の代物らしい。
終身雇用で年功序列で夏冬ボーナスに社員旅行に社内預金、厚生施設に分厚い扶養手当。そんな日々が愚痴混じりに綴られている。
だがオフクロの話によるとこの冊子は人工知能による翻案で構成されているらしい。例えば南の国への転勤とは出征の意味で、辛い兵役の合間に見た夢物語なのだと。そもそも戦争があったというのが信じられなかった。
つまりこのオッさんだか爺さんが生き延びてくれたお陰で今の俺がいるわけだ。ありがたや、と「日記」に手を合わせた。
最後のページを開くとそこには不穏にも
「万歳。帝国は滅亡した」?
何だこれは。人工知能ボックスに入れて逆翻案してみるか。
そこには、塩を得るために羅馬の傭兵となった異端といえど地の塩、アリウス派の誇り高きゲルマン人の姿が垣間見えた。
(サラリーの語源は塩代。なので塩人はサラリーマンと訳された?)
410文字
たらはかに様のお題に参加しています。
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