メガネ冠婚葬祭
あの人に眼鏡フレームをプレゼントしたのは私です。夜道で蹴つまずいて水たまりに落としました。フレームは泥水に濡れ星屑の光を吸収してキラキラ。どんな宝石よりも華やかな眼鏡です。彼はあらゆる場所にその眼鏡をかけて行きました。結婚式、法事、お葬式、成人式。すると必ず知人とばったり出会うのです。
「やあ元気?」
声をかけると相手は
「それがオフクロが先日、」
だとか
「長男が有名私立大学に合格しました!」
などと答えてしまうのです。彼はいつもフォーマルジャケットの内ポケットに祝儀袋やポチ袋やただの封筒を忍ばせてスーツケースにはピンピンとヨレヨレ二種類の現金を持ち歩いていました。
風の便りにあの人が亡くなったと知りました。お通夜の街は真っ暗です。全ての人が家を空けて手に手に提灯を持ち行列をなしています。そのさまはキラキラ輝く2つ団子の串、いいえ、まるで眼鏡のようだわ空から見ると。そこがバラマキ男に疲れ果てた私のいまの居場所です。
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たらはかに様のお題に参加しています。
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