見出し画像

乗り間違った電車とアイツの結婚式

目の前で乗る予定の電車が去っていくこと以上に切ないことがあるだろうか。
しかも特急だぞ。特急といっても都会の特急ではない。田舎の都市を結ぶ特急である。この区間の電車は1時間に1本、もしくは2時間に1本といった感じだ。電車を見送ってしまった私はすぐさま次の発車時刻を確認する。2時間後。クソが。
この悔しさが都会のシチィボーイにわかるだろうか。わかるまい。
時間には間に合っていたのだ。ギリギリではあったが。

友人の結婚式がある地方都市に来ていたものだから、ホテルチェックアウト後の朝マックで、ソーセージエッグマフィンを食べたいに決まっているだろう。電車で食べるのは少し忍びない。だがしかし前日は飲み会だ。翌朝は腹が減っている。ホーム直下のマクドナルドに並ぶ。この時点で発車まで10分。列が進む。あと三人。後ろには続々と。店員が研修の新人だと?おいこの長蛇の列を新人一人に任せるつもりか。正気か?正気なのだな。正気なのだな!
右かかとでビートを踏みながら順番を待ち、注文、受け渡し。あと3分、ホームまで90秒。改札を抜け、エスカレーターを上がる。電車は3番ホームだ。
右手に787系が待っている。我が家のある街に繋がる特急、もはや走る実家と言っても良い。乗り込み、手頃な席に座る。ソーセージエッグマフィンが待っている。
テーブルを出し、袋を開けた。香ばしい香りが漂ったところで私の直感が囁いた。
「あれ?この電車全部のホームの一番端じゃなかったか?」
慌てて時計を見る。発車時刻だというのに、電車は微動だにしない。隣のホームを見る。謎の787系が発車している・・・?ドアの横には、「鹿児島中央」の文字。スピードを上げる電車を昨日の結婚式の花道のように、涙を堪えて見送るしかなかった。
私は長いため息をつき、電車を後にした。ソーセージエッグマフィンは食った。

とりあえず、2時間時間ができた。やってしまったものは仕方がない。自分を肯定するためにこの2時間をどうするかを考えなければならない。
まずは、本屋だ。とりあえず本屋に行けばギャンブルやスマホで時間を潰すよりも自分を愛することができるだろう。駅前に新しくできた商業施設の本屋に向かう。
初めて行くが、確か4階だったはず。4階に来てみるも、ゲーセンしかないではないか。よくよく調べると、この商業施設は2棟に分かれているらしい。クソが。
自分を愛するためにクレーンゲームを1回だけしてゲーセンを後にした。もちろん取れなかった。
募金をしている地域のスポーツ少年たちを尻目に、この街の将来を考えつつ。もう1棟の本屋へ向かう。
とりあえず、小説を買おう。ここで漫画を買ってしまうのもいいが、今日の目的は自分を肯定することだ。インテリっぽい方が良いではないか。
結局、漫画1冊、小説1冊を買った。漫画は買ってしまったが、「漫画で分かる古事記」である。どうだこれは許せるだろう。

電車の発車まであと1時間。ホーム直下のカフェに入る。コーヒーを飲みつつ。昨日の結婚式を思い出す。今まで見た式の中でも1、2を争う良い式だったと思う。私は結婚してもいないし、結婚を予定できるような人にも会えていないが、こんな結婚式を挙げたいなと思う式だった。2次会も3次会もとても楽しかった。今まであまり話せなかった人とも話せたと思う。しかしどうだ?新郎は高校の野球部の同級生であるが、奴はロクな人間だったか?奴のせいで私は何度怒られたか。クラスが同じというだけで、めちゃくちゃ怖い三年生の先輩に奴のいないところで何度怒られたか。そのことを奴に言うと、高笑いしていなかったか?そのことを2次会で話しても高笑いではなかったか?久々に会った私の薄毛にゲラゲラ笑っていなかったか?言いたいことは山ほどあるぞ。
正直に言うと、奴がちゃんとした人になったのかは、私は懐疑的である。
だのに、だ。

奴の結婚式には今までの結婚式で一番人が集まっていた。一番笑いが起こっていた。一番涙が流れていた。なぜ私は泣いてしまったのか。
人生は理不尽だと強く思った。迷惑かけまくりのやつなのに、なぜこんなにも魅力的なのか。彼のようになれる訳がないとわかっているのに、なりたいと思ってしまった。奴のような屈託なく笑えるような人になりたいと、また思ってしまった。クソが。

カフェでnoteを書き始めたが、発車まで残り8分。
また遅れそうだが、今日は自分を許せそうだ。



大好きです。