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ゼクシィのち、玉ねぎ畑の中真ん中で。

ついに、来た。僕にも、来た。

みんな大人だぁ。と実感する日があったので、そんな話を。


「別に羨ましくねぇし!」

と言い放ったのは私と、私の助手席にいた男だ。

先ほど「俺、結構な頻度で風俗に行くんだ」と突然の告白があり、「一緒に風俗いかね?」と誘われた。心は一瞬躍ったが、時間も時間だったしお金もなかったので断った。また今度。

つまるところ当分浮ついた話題の無さそうな二人を乗せた軽自動車は、両サイド玉ねぎ畑の星降る田舎道を爆走していた。フロントガラスに蛾がぶつかる。ライトは常にハイビームにしている。話題は結婚、同棲、彼女そんなところだ。

友人が次々結婚していく。

ついに私のところにも一度目の結婚ブームが来たようだ。

結婚するor結婚したと伝えられたときは、サッとおめでとうと言える。

そうだ。僕だってそろそろ大人だ。一連の所作立ち振る舞いは、何となく知っている。知らなけりゃググる。如才なくお祝いメッセージを繰り出す。

ぎこちなくなかっただろうか。
ちゃんと祝えただろうか。
いつもそんなことを考える。

なんならこないだ、高校時代にバッテリーを組んでいた(控え投手だったのでこの表現は怪しい)友人が結婚した。

とってもきちんとしている男で、高校時代は少し怖いと思う事もあった。けれど3年ぶりに合う彼は物静かで温和で、なんだか余裕があった。奥さんはとてもしっかりした方で、綺麗だった。奴は、奥さんの前ではかなり気を抜くらしい。別に羨ましくなんてない。

私はここで一度コーヒーを飲む。頭を強く打ちつける。

高校時代同じクラス、同じ部活だったふざけた男も結婚した。今までの人生で一番ふざけた人だったが、小洒落た冗談を言うようになり、「大人」を感じた。奥さんはとても気が回る綺麗な方だった。奴より、奥さんの方が力を持っているようだが、そんな会話も小気味いい。別に羨ましくなんてない。

ふう、ここで一度息を吐く。遠くの空を眺める。

お!今がチャンスとばかりに、そろそろ結婚する彼女を連れてきた男は昔から、モテ男。特段驚きはなかった。息を吸うように、雰囲気に溶け込む、クールなくせに熱い。彼女さんはとても面白い方だった。奴は両家ご挨拶の相談をしている。緊張するらしい。別に羨ましくなんてない。

沈黙、窓を開ける。虚空を見つめ、無を意識する。

もう長く会えていないが、一番やさしいあいつは奥さんの尻に敷かれているらしい・・・別に羨ましくなんてない・・・羨ましくなんてない。

羨ましいわけがない!1人だと好きなことできるし、好きにお金使えるし、恋人はいねぇし、車もねぇし、髪は抜けるし、休日はひきこもってばっかりだし、マッチングアプリでいいねは付かねえし、司馬遼太郎は余談ばっかりだし!


彼らが奥さんの横で少し照れながら言う。

「うちの妻です。」


はい、ここで柴崎、絶命。

はい、ぼくもそれいいたいです。ものすごくにやけなら、それ言いたいです。うらやましいです。

少し、人生のステージが変わってしまったような彼らと自分を比べて、比べても意味ないんだけど、やっぱ羨ましい。

何か羨ましいかって、もちろん、収入の安定とか貯蓄とかもそうなんだが、心通った人と分かち合って過ごせる事が、とんでも無く羨ましい。
うちの妻ですって言われて明らかに喜んでる奥さんをみて、これってすごい事だと思った。

いいなぁ。

彼らは、誰かに必要とされたんだなぁと。
彼らは、その人柄が選ばれたんだなぁと。
そして、彼らは見つけたんだなぁと。
結婚したという事実よりも、そんな事が羨ましい。

雨が降って何となく暇になってしまった日、
「どこにも行けないねぇ」「どうする?」って話ができるんだ。すごく幸せなんじゃないだろうか。

僕は1番辛いのは、独りになることだと思っている。


隣に風俗男はもういないし、深夜のラジオの電波からは何も流れてこない。
ブラックブラックをかみながら、自宅まで走った。

それからきんたまらじおの収録もした。自分でも面白いと思う。
とんでもなく楽しい、どこの誰かも知らない人が喜んでくれているらしい。

noteにコメントが来た。
もう2年も前に60枚だけ売れたCDを大切にとってくれていて、車中で歌ってくれているという内容だった。飛び上がるほど嬉しかった。


サングラスは壊滅的に似合わないし、シャレオツなレストランにも入れない。
お揃いのマグカップも持ってねえし、音楽の趣味も変わらない。歯ブラシスタンドは1人用の100均のやつだ。相変わらず一人で食うロールケーキは最高だ。

でも別に、全然羨ましくねぇからな!

なんて言いつつ、こっそりマッチングアプリに課金した。

5月 19時12分

大好きです。