見出し画像

曾我兄弟の従兄

※『曾我物語』を知っている人向け

ずっと子供でいたかった。
けれど弟ができたから、僕は兄となった。

弟と僕は父が違うし、弟の方が、僕よりずぅっとデキが良かった。

それでも僕は年上だから、弟より早く大人になった。

大人となってしまった。

父の跡を継ぐのは、どうせ弟だ。
だったら僕は、兄として立派な武士となろう。

***

初陣が防衛戦とか、本当についていない。
いの一番にかけていけば誉となる、というわけでもない。

肩を射ち抜かれて、足に矢を受け、腹に食らった時は死んだと思った。

目が覚めて、息をするだけで激痛の走る重い体に、いっそ死んでおけばよかったと思った。

僕を助けたのは敵の大将で、
父は僕を捨てて逃げたらしい。

そして、僕は、二度と弓を引けず、馬に乗れない体となった。

捻くれるのには十分だろう?

弟は順調に成長し、父の跡を継ぐために、いろいろ学んでいる。

そして弟も大人になった時、また一人、弟が生まれた。

僕はどんどん大人になる。そして子供はどんどん生まれる。

この小さな弟が無性にムカついた。

「あにうえ、あにうえ」とまとわりつくのも鬱陶しい。

母方の従兄弟が遊びにきた時も、従兄弟たちはこの小さい弟に構ってばかりだ。

この従兄弟たちも、立派な志の武士だとチヤホヤされている。

なんで僕はこんなーー

***

従兄弟が「敵討ち」を計画しているらしい。

その計画を台無しにしたくて、僕は告げ口した。だけどーー卑怯だと言われたのは僕だった。

なんでだよ、どうしてだよ。
ふざけるな、どうして僕ばかりーー!

やめろやめろ、やめてください、父上。
僕をそんな目で見ないで。

母上、目をそらさないで。

「あにうえ、あにうえ、あそびましょ」

小さい弟だけが、相変わらず僕にまとわりつく。

「なにこれ!?」

部屋中に散らばる僕の髪に驚いて、小さな弟が泣き出しそうになる。

その口を塞いで「誰にも言うな」と言うと、小さな弟はコクコクと頷いた。

僕は今夜、そっと出ていくのです。


よろしければサポートをお願いいたします。頂いたサポートは執筆活動の資金にいたします。