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「初めて文楽観に行った!」2021年9月21日の日記

・午前中で仕事を切り上げて、半蔵門駅近くにある国立劇場へ向かった。
・文楽(人形浄瑠璃)の9月公演を観に行くため。


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・ここが国立劇場入口。わたしは国立劇場に来るのは初めてだったので、オペラやバレエの公演が行われる初台の新国立劇場とか日比谷の日生劇場の雰囲気との違いに「おぉ」と思った。


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・かっこいいね。



・そもそも、なぜ文楽を観に来ることになったかというと、わたしがアートコミュニケータとして活動している東京都美術館の同期の中で、文楽がとっても好きな方々がいて、その方たちと仲良くなったことをきっかけにわたしも文楽に興味を持ち、「じゃあ一緒に行きましょう」と声をかけていただいたので、今日、劇場待ち合わせで一緒に鑑賞することになった。


・完全に術中にハマりっぱなしだと思うけれど、わたしもフッ軽でなにか自分の興味のあるものに誘われればホイホイついて行く性格だし、何より「初見」なものが好きなので、今日のことはとても楽しみにしていた。


・もう少し興味を持ったきっかけについて詳しく話すと、その文楽好きの彼女らから、文楽入門に勧められた2冊の本が、わたしが文楽を観てみたいなと思ったきっかけ。

・どちらも著者は直木賞作家の三浦しをん先生。


・「あやつられ文楽鑑賞」は、文楽を構成する技芸員さんたち(人形遣い、大夫(たゆう)、三味線)それぞれの役割や、文楽そのものの魅力について書かれていたり、技芸員さんたちとの対談が書かれている。


・「仏果を得ず」は、文楽を題材とした青春小説。


・わたしは今日までにどちらも読了して、文楽への興味を深めていった。


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・さて、劇場前で待ち合わせていた4人と合流する。都内の文化財団の職員さんとして働く方と、藝大の日本画の子たち3人、そしてわたしの5人というグループだ。


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・文楽は様々なお話を1日を通して上演しており、それぞれ公演時間によって第1部~第3部に分かれており、チケットも部ごとに販売される。1部から3部それぞれでお話は独立しているので、全部観る必要はない(し、特に観たいお話だけを選んで鑑賞するのが一般的だと思われる)。


・わたしたちが観たのは2部。上演されるお話は2つで、1つは「卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい) 」から、「平太郎住家より木遣音頭(きやりおんど)の段」。約1時間半の演目。
・なんだか難しい名前がついているけれど、お話自体は難しくない。

・お話の概要はこれがわかりやすいです。


・ちなみにこの解説は歌舞伎のほうの「卅三間堂棟由来」だけれど、文楽と歌舞伎がブームになっていた江戸時代当時、著作権というものは無かったので、文楽でウケた作品をじゃあ歌舞伎でやってみようとか、その逆はよくある話だった。なので、文楽と歌舞伎で同じ話があるというのはよくある。



・もう1つは「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」より「渡し場の段」。こちらは25分程度の演目。

・あらすじがわかりやすいのはこれかな。



・劇場に入り客席で待つ。持つべきものは文楽好きの知り合いで、今日のチケットは一緒に行った方が技芸員さんとお知り合いで、技芸員さんから直接チケットを取ってくださったので、めっちゃめちゃ良い席(前から5列目ど真ん中)だった。


・国立劇場はどん帳が綺麗で、開演10分まえくらいから、劇場内のアナウンスでどん帳の柄の解説がはじまったのが面白かった。何度も来ている人はもう暗記しているくらいなのかもしれないけれど、誰のなんという作品を元に作った柄のどん帳なのか説明された。解説が終わるとどん帳が1枚上がり、次のどん帳が現れる。


・このどん帳マトリョーシカの解説を何枚か聞いたのちに太鼓と拍子木が鳴り、開演した。


・舞台上手側(客席から見て右側)の床に、太夫(たゆう)さんと三味線さんが1人ずつ並ぶ。太夫さんの役割は、登場人物のセリフとナレーションを1人でこなすこと。


・言葉が古い言葉遣いなので難しいのかなと思いきや、意外と聞き取れたうえに、字幕も表示されたのでなんにも困ることは無かった。


・舞台では人形が演じているのだけど、文楽では1体の人形を3人の人形遣いさんで操る。顔と右手を操る主遣い(おもづかい)、左手を扱う左遣い、足を操る足遣いの3人。


・最初は人形の裏に「人が3人いるなぁ」という感じで普通に見ていたのだけど、だんだん人形と人形遣いさんと舞台とが一体化してきて、よくある目の錯覚の、ある場所を見ているとその周辺のマークが消える錯視みたいな感じで、気にならなくなっていく感覚がおもしろかった。


・それから、舞台の上から雪を模した紙吹雪が落ちてきたり、「卅三間堂棟由来」では柳の木がポイントなので柳の葉っぱが落ちてきたりといった舞台装置もわたしにとっては意外で面白かった。
・サプライズ的なところで言うと、これは「日高川入相花王」の見どころでもあるのだけど、清姫が大蛇になって日高川を渡るシーンでは、人形遣いさんが人形を一瞬で持ち換えて、娘の人形から人外の蛇となった人形に持ち替えたり、娘の顔が一瞬で鬼の顔になる「ガブ」という人形が使われたり、そうした仕組みがとても面白かった。



・「卅三間堂棟由来」のように、人間と柳の精が結婚する異類婚姻譚(いるいこんいんたん)の話は、西洋でもよく出てくる題材だ。たとえば王子様と人魚とか、水の精ウンディーネと騎士とか。


・でもその愛と悲劇を表現するのに用いる手法は、オペラやミュージカルとはほとんど真逆だった。
・楽器は三味線のみ。複数人の登場人物のセリフやナレーションを1人の大夫さんが務める。派手でない舞台道具、無表情に作られ、所作だけで感情を表現する人形。音楽ですべての間を埋めずに、無音の空白で空気を表現する。
・でもその美学がとても美しく、感情を動かし、話と登場人物の感情に観客と没入させられた。


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・あと今回はプログラム引換券つきのチケットを取っていただいたのだけど、文楽のプログラムの作りがものすごくボリュームがあってびっくりした。普通に買っても600円~700円らしいのだけど、演目の詳しい解説はもちろん、文楽の歴史についての解説があったり、技芸員さんのコラムがあったり、なんだか文楽に特化した雑誌みたいだ。


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・文楽に使われる人形のかしらの写真。
・クラス写真って大体こんな感じじゃないですか?左上に担任の先生(婆)が映っていて、クラスに1人いるアイドル(娘)がいたり、クラスに1人いる面白キャラ(三枚目)がいたり、クラスに1人いるヤベーやつ(ガブ)がいたり。


・文楽は演目ごとにオリジナルの顔が作られているわけではなく、この10数種類の人形が、演目によってさまざまな役柄になり登場する。


・今回の公演では、「卅三間堂棟由来」のお柳役の人形に、人間国宝の吉田和夫さん、三味線にも人間国宝の鶴澤清治さんが登場されるという豪華さだったのだけど、特に三味線の鶴澤清治さんの音が次元が違っててすごかった。わたしがイメージするような三味線の音ではない。表情というか空気感というか、劇場の空気の温度と色を一瞬で染め上げて、変化させるようなものすごい三味線だった。


・12月には文楽のお馴染みの演目「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」が公演される。行こう...絶対行こう...。



・この動画で、10分ちょっとで「日高川入相花王」の渡し場の段の見どころを抜粋したもの観ることができます。
・どんな雰囲気なのかな、と気になる方はまずはぜひこちらを観てみてください!

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