新卒でパワハラにあった話
この時期が来ると思い出します。
2年前、22歳、知らない場所で、苦しんだこと。
2年前、私は今とは違う仕事をしていました。
1日8時間勉強して、試験に合格して、やっとの思いでついた仕事。希望の部署には入らないかもしれないけど、やりたいことが出来る。同期もたくさんいる。私の胸は希望でいっぱいでした。
そして3/22、一本の電話がありました。
「〇〇市の〇〇で勤務ということになりました。よろしくお願いしますね」
4/1から働く場所、それは県内といえど、100キロ以上離れた場所にある田舎の学校でした。
それから一週間、怒涛の新生活準備が始まりました。
まず家探し。実家からだと往復4時間。交通費も半分くらいは実費になります。それなら一人暮らしをした方がいいだろうということになったのですが、田舎なので住む場所がなく、勤務先から少し離れた場所に住むことにしました。海の見える自然豊かな場所。交通の便は悪いですが、それほど苦には思いませんでした。
そして車。中古の軽を両親に買ってもらいました。今思えば知らない土地で超ペーパードライバーの私が車通勤、親にとっては気が気ではなかったと思います。
新生活の準備が終わり、近くのスーパーで買った菓子折を持って、4月1日、私の仕事が始まりました。
私の職場は学校の中の小さな一室でした。小さな机がたくさんの書類に囲まれて、ひっそりと佇んでいる、暗くひんやりとした場所でした。
隣は私より一回り大きい男性でした。彼は優しく、右も左も分からない私に、丁寧に教えてくれました。
上長も穏やかで優しく、あまり仕事に口を出さない方でした。
それから2ヶ月です。
身体の調子がおかしくなりました。
職場についたら手の震えが止まらないのです。
顔が熱くなり、涙が出てきます。頭が突然真っ白になって、言葉が出なくなりました。
ある日、仕事が休みだった母が訪ねてきました。
当時はほとんど連絡もとっておらず、「大丈夫?」「元気にしてるの?」というラインに、スタンプだけ返していました。(今考えると全然大丈夫じゃないし元気じゃない)
なぜ母が訪ねてきたのかは覚えていませんが、何か虫の知らせのようなものがあったのかもしれません。
帰ってきた母は私を見てこう言いました。
「なんでそんなに痩せてるの?」
全く気にしたことがありませんでしたが、当時40キロを切っていたみたいです。(あとで病院のカルテを見て知りました)
私は「仕事が少し大変で、覚えることがたくさんあって、でも教えてもらってるのに出来ない私が悪いの、皆さんよくしてくれるし」と言ったそうです(もうここら辺から記憶がない)
「今日だって自分の仕事が出来なくて、周りにすごく迷惑かけてしまった。本当に毎日申し訳ない気持ちでいっぱい。自分が情けない」
「あなたのせいで僕は自分の仕事が出来ない。何回言っても出来ないのはどうしてなのか」
「出来た書類を見て『こんなもの、見る価値がない。これを見て僕に一体どうしろというのか』と言わせてしまった」
「舌打ち、書類を投げられる、ため息をつかれる、調べても分からないことを聞いても教えてもらえない。分からないことが聞けなくなってしまった」
「みんなの邪魔になっている自分が情けない。消えてしまいたい」
…みたいなことを泣きながら繰り返したようです。
それを聞いて母は険しい顔をしていました。
「それは、普通の上司だったら言わない。配属されて2ヶ月の子にそんなことは言わない。
世間ではそれをパワハラというんだよ」
ここで初めて、私は「パワハラ」という概念に気づきました。自分でつらつらと話しておいて、私は、ずっと、自分だけが悪くて、自分が出来ないせいで、迷惑をかけているせいで、とぐるぐる考えていたのです。
「仕事において、あなただけが悪いなんてあるはずがない」
「まずは上長に相談しなさい。教育方針や仕事環境の見直しを考えてくれると思うから」
「あとは周りに相談できる人はいないの?同じ部屋にいて、証言してくれる人はいないの?」
…頭がパンクしそうでした。
周りに相談する。そんなこと考えたことがなかった。この時点でもうどこか私はおかしかったのです。
「とりあえず今日は寝て、明日考えてみる」
母は黙って考え込んでいました。辛い時は必ず相談するように。しんどい時は連絡するように。そう言って帰っていきました。
次の日のことでした。
突然職場で吐いてしまったのです。
きっかけはほとんど覚えていないのですが、
多分上司に何か言われたのだと思います。
その日はずっと目頭が痛く、震えが止まらず、
頭が空っぽになってしまったようで、毎日接しているはずの上長の名前すら出てこないことがありました。
そして帰り道。
いつものように車を運転していた時でした。
「このカーブを曲がらなければ、車と一緒につぶれてしまえば、明日、仕事に行かなくていいな」
ふとそんな思いがよぎりました。
ハンドルから手を離してしまおうか。ぼんやりとそう考えた瞬間でした。
両親、妹、祖父母、恋人、色んな人の顔が頭に浮かびました。
なんて馬鹿なことを考えたんだろう。
そう思い涙が止まらなくなりました。
そして家に帰ると、昨日帰ったはずの母が待っていました。
涙で濡れた私を見て、母はまた怖い顔をしました。
どうしているの、と戸惑っている私を振り切って、母は言いました。
「家に連れて帰る。明日病院に一緒に行く。
これ以上あなたを一人きりにはさせない」
そう言って、私は母の車に押し込められました。
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