自然農法と教育の共通点
菌ちゃん農法とは
先日参加させていただいた講演の内容についてご紹介したいと思います。
実は、うちでは畑を借りて奥さんを中心に野菜作りをしています。
農薬や化学肥料を使わずに安全でおいしい野菜を育てたいという想いがありました。
でも3年ほど本を読みながらやってきたのですが、なかなかうまく育たず、どうしたものかと思っていた時に知ったのが「菌ちゃん農法」です。
菌ちゃん先生、の愛称で親しまれている吉田俊道さんは、長崎の佐世保で菌ちゃんファームをされています。
今回たまたま近くに講演に来られるというのを知って、早速夫婦2人で行ってきました。
菌ちゃん農法というのは、糸状菌や窒素固定細菌といった菌ちゃんの力を借りて無農薬、無肥料で育てる方法です。自然農法の一種です。一般的な自然農法が4、5年かけて土を作るのに比べ、収穫できるまでの期間が短いのが特徴です。
いろいろ感銘を受けたため、ご紹介しきれないのですが、今回は特に2点ご紹介します。
農薬を使わないのに虫が来ない?!
菌ちゃん農法で栽培された野菜の驚くべき点は、農薬を使っていないのに虫に食われない点、そして、化学肥料を与えなくても野菜が元気に育つ点、栄養価が高い点です。
もともと、植物は野菜にしろ、木々にしろ、自然の中で元気に育っています。人が肥料をあげたりはしていません。
これって当たり前のように思えますが、現代農法では、化学肥料を与えたり、農薬をまいたりといった形で、人工的なことをして育てています。
もちろんそうしないと虫には食われるし、大きく育たないということが常識のようになってしまい、しかたなくやっている農家の方もいることでしょう。
でも、菌ちゃん先生によれば、自然の循環の中で育てれば、化学肥料も必要ないし、元気な野菜には虫が来ないので、農薬は必要ないというのです。
「奇跡のりんご」の木村秋則さんも「土がよければりんごの木は元気になり、虫が来ない」と同じことをおっしゃっています。
確かに、菌ちゃんの畑の野菜は元気で、葉は濃く、青々としていますが、虫に食われたあとがほとんどありません。
元気な野菜は抗酸化成分を多く含んでいるため、胃液をもたない虫は消化できないためだそうです。大学で調べてもらった結果、それが裏付けられたとのこと。
肥料がなくても野菜が育つ?!
菌ちゃん農法では、植物に必要な窒素分などをあえて与えないのになぜ元気に育つのでしょうか?
もともと山では、落ち葉などが朽ちると、さまざまな菌が分解してくれます。その一つが糸状菌です。中学の理科でも出てくる「分解者」の一種です。
糸状菌は、落ち葉から得た養分を窒素固定細菌に与えます。
窒素固定細菌には、空気中の窒素を地中に留める働きがあります。植物にとって必要なその窒素を、植物に与えてくれるそうです。
糸状菌 →(養分)→ 窒素固定細菌 →(窒素)→ 植物
だから、窒素などを含む化学肥料をやらなくても、植物が元気に育つということなのです。
そのため菌ちゃん農法では、植物に対して直接肥料は与えないかわりに、糸状菌のえさになる落ち葉や朽ちた木などを与えます。
つまり山で起こっていることを再現してあげるのですね。
糸状菌は落ち葉を分解して、エネルギーを窒素固定細菌に与え、窒素固定細菌は窒素を地中に溜め、糸状菌を介して植物に与える。さらに植物は光合成によって得たエネルギーの半分を地中に戻すそうです。
麗しき自然の共生関係ですね。
このような植物の共生関係は、ワイツマン科学研究のタミル・クライン氏の最先端の研究がサイエンス誌に掲載されたことでも明らかになってきました。
菌ちゃん先生をはじめ、自然農法の農家さんは、論文で科学的に明らかになる前に、経験的にこのことを理解され、それを実践されているわけです。
虫や菌は死を生に変えてくれる
実は虫も分解者の一種です。そのため、元気な野菜ではなく、弱って死にそうな野菜を好んで食べるそうです。
つまり、それくらい現代の野菜は弱っているということなのですね。
実際に、昔の野菜は今の5倍以上のビタミンやミネラルなどの栄養分を含んでいたそうです。大学で測ってもらったところ、菌ちゃん農法で育てた野菜は、確かにスーパーの野菜に比べ5倍以上の栄養価があったとのこと。
菌ちゃん先生はこうおっしゃっていました。
「我々は"生"をいただいて生きているが、虫や菌は"死"を食べて命に戻す、つまり、風の谷のナウシカでいう腐海の木々や虫、もののけ姫でいうシシ神のような存在なんです。」
自然の中には不要なものがない
このお話を受けて、感じたことが2点あります。
1つ目は「自然というのは、人間が何かをしなくても成り立っている。不要な存在は何一つないんだ。」という点です。
多くの人が忌み嫌う虫や菌のような存在も、いてくれるからこそこの世界は成り立っているのですね。
ということは、自然の一部である我々も、この世に生を受けて、不要な人はいないということのメタファーでもあると思います。
中学の理科で生産者や分解者の知識を習いますが、点数は取れても、それを実感としてとらえ、生きた知識として理解するというのはなかなか難しいということにもあらためて気づきました。
勉強のサポートも同じ
2つ目は、「この自然のしくみと子供達への勉強のサポートも同じ」ということです。
日々子供達の勉強のサポートをしていて思うのは、子供たちはなかなか思う通りにはならないということ、つまりコントロールできないという点です。
もちろん、大人の指示に従順な子で、言われた通り勉強し、いい成績を取る子も一部にいます。また、もともと勘がよく自立心が強くて、管理教育の中でも歪まずにすくすく育つ子もいます。そういった子達をみると、うまくやれば子供をコントロールできると勘違いすることもあるでしょう。
しかし、長年の経験からも、本当の意味では人はコントロールできない、と実感しています。
にも関わらず、無理やり知識を詰め込んだり、手っ取り早く点が取れるテクニックを教えたりして、大人のペースでコントロールしたくなってしまう。いい点を取らせてあげたいと、結果を意識すればするほどそうなりがちです。
化学肥料を与えると、一時的に点数も取れたりして、一見よく育つように見えるのですが、自主性や自分で考える力などが阻害されることがあります。野菜の栄養分が減ってしまうように、子供達も弱ってしまうのです。
そして、そのようにして育つと、社会という野生で生きにくくなってしまうということが起こっているのではないか、と感じます。まるで化学肥料をあげることで、虫や病気に弱くなった野菜のように。
そこまでいかなくても、初めてみる問題が解けないとか、点数は取れるようになっても勉強嫌いになって、読書と無縁の人生になるとか、は多くの子に起こっているかもしれません。
結局は、自主性を損なわないように気をつけながら、(植物が自力で育つことを阻害しないように)その子のペースでサポートしてあげたほうが、長い目で見るといいということがあると思うのです。
こういった点が自然農法と似ているところだな、と感じたのでした。
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