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28日目:殴りたいあなたへ

フェネック文章力向上月間
Day28 ぶん殴りたい人


殴りたい人は山ほどいる。

件の性加害者、性被害時に「たちばなさんも悪いのよ」と言ってきた上司と保健師、私に嫌がらせをしてきた元同僚、意地悪だった先輩、私を汚物扱いしていた中学時代の同級生たち。

中でも、一番殴りたいのは父親である。


生まれてから、私たち家族は父の機嫌を気にしながら生きていた。
父はこの世界において絶対だと刷り込まれてきた。

この世は馬鹿ばっかりで、父はその中でも希少な優秀な人間で、その娘の私も優秀だ(正確には「優秀でないといけない」かもしれない)と思わされてきた。
だから小学生時代の私は高飛車だったし、それで対人関係が上手くいかなくても「あいつらが馬鹿だから仕方ないのだ」という両親の言葉を本気で信じていたから反省なんかしなかった。
小学校高学年くらいまで、父が間違うわけないのだと本気で思っていた。
今考えると、あんな間違いだらけの父を盲信していたなんて滑稽な話なのだが。


刷り込まれた世界に違和感を覚えたのが中学時代で、決定的におかしいと気づいたのが高校生の頃だった。
母親には何度も何度も「離婚してくれ」と頼んだが、「片親になるのはあんたがかわいそうだ」との理由で受け入れてもらえなかった。
私は片親になろうがどんなに貧乏になろうが、あの父親と暮らす方がよっぽど嫌だったのに。

離婚を受け入れてもらえないのなら、どうやってあいつを殺そうかと毎日本気で考えていた。
上手く高台に連れて行って突き落とそうか。それとも少しずつ毒物を盛って殺そうか。
正直、受験なんてどうでもよくなっていた。そんなことより、いかに父から身を守るかの方が遙かに大事だった。


大学時代も、就職して数年実家に戻っていたときも、父親にびくびくしながら暮らしていた。酔った勢いで家のドアを破壊しそうになり、警察を呼んだのもこの時代だ。
お金を貯めて一人暮らしを始められたときは開放感でいっぱいだった。
ようやく父親のあの足音を気にして生きなくてもいいのだ、という安心感は、それだけで私の心を幸せにしてくれた。

今は距離を置くことで、まあなんとか安心して暮らせている。
それでも許されるのならば、数十年間安全を脅かされていた分の恨みを込めて、父親を全力でぶん殴りたい。

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