私は入れない

「次の方、どうぞ」

病院の一番角の部屋。

ピンク色のカーテンの部屋の向こうに、女性が次々と入っていきます。

私はその光景を、遠くで見ていました。

私は、そこに入れないから。


その日は、健康診断でした。

会社から日時を決められていて、女性の上司と一緒に、病院へ行きました。

乳がん検査、子宮頸がん検査も受けられるよ、と言われたので、念のため、私はその予約も取っていました。

受付へ向かって、問診票のようなものを提出すると、受付のお姉さんが「あっ」と声を出しました。

そして「こちらをお読みください」と、ズラリと文章の並んだ紙を、私に差し出しました。


性交渉の経験が無い方へ


そう見出しに書かれた文章を、私は読みました。

この病院での、子宮頸がん検査の方法では、性交渉未経験だと、逆に傷をつけてしまう可能性がある、ということが書かれていました。

「受診されますか?」

受付のお姉さんが、小さな声で、優しく聞いてきました。

私は「やめときます」と伝えて、通常の健康診断のみを受診しました。


私はすべての検査が終わった後、朝から何も食べていないことで具合が悪く、病院のソファでゆったり座っていました。

その近くに、子宮頸がん検査の部屋がありました。

たくさんの女性が、吸い込まれるように、その廊下に並んでいました。

年齢は様々。

私と同じくらいの人、私より若い人も、当たり前のように、その部屋に入っていきます。

私の上司ももちろんです。

なんだか、一層、気分が悪くなりました。


みんな、してるんだ。

普通なんだ。

性交渉したことないほうが、珍しいのかな。


ぐるぐると、考えてしまいました。

彼氏がいたことはありますが、そういうことをすると考えただけで気持ち悪くて、そう思っていることが相手に申し訳なくて、お別れしています。

性行為に興味はあるけれど、憧れとかはありません。

しないなら一生しなくていいと思っています。

私がおかしいのかな?

それとも、性行為をしたいと思えるほどの運命の人に、出会えてないだけなのかな?

なんだか、その子宮頸がん検査の部屋と、私との間に、大きな境界を感じた1日でした。




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