見出し画像

Apple Vision ProはHoloLensの完成形。現時点での限界値

「ついにここまで来たか」

Apple Vision Proを体験した率直な感想である。

昔は海外の電波を発する新製品は国内で使用できなかったが、今は総務省の技適の特例制度を利用することでいち早く試すことができる。

「海外法令」云々のところで多少つまづいたが、これはFCC IDを検索すれば解決した。

https://fccid.io/BCGA2117

VisionProのFCC IDはBCGA2117だった。
これで準備完了。

吾輩は、かつては1990年代にキヤノンのMR(混合現実感)システムや理化学研究所のSR(代替現実感)システムを試し、大学院の履修生をやっていた頃はVR特講を受講し、学生対抗国際VR(人工現実感)コンテストに参加したこともある。htc Viveでいくつかのデモを作り(ほとんどは非公開)、Oculusもほとんど持ってるくらいはHMD好きである。片目リトラクタブルHMDで自転車の走行を支援するシステムのデモも2008年頃に作った。

2017年には機械学習したMNISTのニューラルネットワークの内部構造を三次元に次元圧縮し、特徴空間を可視化しVRとして没入するFeature Space Diverを作った。

というわけで、VR/AR/MR/XRについては何家言かあるのだが、その後、HoloLensもHoloLens2も買ったしQuestもGoも含めて全部持っていた。

その上で、HoloLensでやりたかったこと、やれそうだと思ったことをApple Vision Proは全部実現してて本当にすごいと思った。

HoloLensはアレックス・キップマンという久々に現れたマイクロソフトのトリックスターみたいな男が、手品みたいなユーザーインターフェースで革新的なことを次々と披露したのが非常に画期的だったのだが、デモが凄すぎて実際にやってきたHoloLensによる体験は、お世辞にも誉められたものではなかった。

実のところ、HoloLens単体でも、今のVision Proみたいなレベルまでもっていくことが不可能とは思えなかった。単にレンズを黒いプラスチックかなんかで覆うだけでほとんどの問題は解決したと思う。HoloLensは動画では素晴らしいものに見えるが実際に被ってみると合成される視野角が狭すぎて、等身大のキャラクターはGANTSの転送途中の人間みたいにぶつ切りにしか見えなかった。

ただ、Appleがもはやチャレンジャーではなく巨大企業になってしまったせいで、チャレンジ精神は失われた。

Vision ProはHoloLensのコンセプトビデオ以上でも以下でもない。

これはすごく誉めている。
HoloLensのコンセプトビデオは完璧だった。ただひとつ、まったくのデタラメというところを除けば。

実際のHoloLensはApple Vision Proよりも高価で、しかもApple Vision Proより性能が低かった。

外部バッテリを必須にするというAppleらしからぬ決断によって、Vision Proは初めて「まともな空間コンピューティングデバイス」と呼べる代物になった思う。

ただ、このコンセプトはHoloLensの時に既に確立されていたもので、その意味ではゼロックスPARCで開発されていたGUIとオブジェクト指向とネットワークを統合した暫定Dynabookコンセプトを見たジョブズとゲイツが、GUIに目を奪われて本質を見失ったままLISAとWindowsをそれぞれ作ったのと似てる。

HoloLensにおいて新しい要素は空間コンピューティングのみだった。HoloLensではそれを「ホログラフィックコンピューティング」と呼んだが、それは大袈裟なマーケティングのための戯言であることは誰もがわかっていた。ホログラフィックコンピューティングなどという戯言に比べたら、空間コンピューティングのほうがずっといい。

いくつかの点で、Vision ProはHoloLensの欠点を全て解決している。
ブルームという、パーデンネンみたいなアホみたいなジェスチャーはなくなり、かわりにApple Watchでもお馴染みのクラウンを押す操作になった。

画期的なことは二つあって、ひとつは視線入力。機械学習を応用したと思われる視線入力は慣れれば快適で、まだ難しいところもあるが、最初の出来としては及第点だ。iPhoneの初代のキーボードに比べればぜんぜんマシという感じがする。

HoloLensの信じがたい欠陥は、視線を入力するのではなく、画面の中央に表示された「点(カーソル?)」を頭を動かしてクリックしたい対象に向けていた。これは非常に苦痛な動作で、HoloLensを使う人の疲労を倍増させた。

また、HoloLensに搭載された「ホログラフィックOS」は、なんとプリエンプティブマルチタスクではなかった。

たとえばブラウザで動画を再生しながら、メモ帳を使うことはできなかった。

メモ帳に何か打ち込んでいる時、動画は停止している。
これならパソコンの画面をたくさん表示させた方がはるかに負担が少ない。

Apple Vision Proの視線入力はもちろん、クリック操作も人差し指と親指をくっつけるだけでこれは非常に楽な姿勢でやることができる。

Safariの画面は複数開くことができるし、動画を再生しながらWordで(!!!)文章を入力することもできる。これぞ真のプリエンプティブマルチタスクである。

Microsoft Wordがローンチタイトルなのも驚いた。
たぶんMicrosoftはずっとHoloLensでこれがやりたかったに違いない。でもできない。OSが終わってるからだ。Appleは程度の問題はともかく、名前だけでなくソフトウェアツールスタックをiOSとmacOSでできる限り共有化してきた。

iOSアプリの開発に慣れている人はVisionProのアプリをすぐさま作ることができるし、慣れてない人もUnityやJavaScriptで作ることができる。

個人的に嬉しかったのは、WebXRに対応していたことだ。ちょっとややこしい設定をしなくてはならないが、WebXRに対応していることでプログラミングの手間をかなり減らした上で好きなことができる。具体的にはMMDを自分の部屋に召喚することなど。完全に山本弘の世界である。

みんなが絶賛している解像度だが、150万円のVarjoに比べるとそこまでではない。

Varjoの場合、VR空間上の本の文字が読めるほど高精細だが、Vision Proはそこまでではない。

VIsion Pro越しに4K画面を見ていると、カーソルを見失う。ただ、Varjo(150万円)+A6000搭載PC(70万円)と50万円のVision Proを比べるのはフェアではないと思うかもしれない。

僕はVarjo(合計220万円)のVR空間には「ここに住める」と思ったが、VisionProの世界に住むのはキツイと思った。

また、頭への装着の負担はQuest3よりもきつい。

Twitterなどで「ずっとかぶっていられる」などという感想を散見するが、それは若すぎるかアドレナリンが出過ぎて痛覚が鈍化してるだけだと思う。普通に疲れるし脱いだ時の開放感はすごい。むしろこの開放感を味わいたくて被る人がいるかもしれないくらい。

今回、初めて1時間30分連続で被ってみたが、脱いだ時、「現実最高」と言ってしまった。

ただ、HoloLensのビデオからみんなが予想したことは全部できてるが、いまのところ予想を超えることは起きていない。

特にAIとの連携がまだまだ足りない。
もちろん今年Appleから発表されると言われている生成AIについての発表がどんなものなのかはまたないといけないが、これはようやく空間コンピューティングのスタートラインに立てたということにすぎず、今のところ残念ながら想像を超えるアプリには一つも出会えていない。全てが予定調和であり、おそらく多くの人にとって一度体験すれば充分で、ほとんど全部のコンテンツがQuest3で体験可能である点には注意したい。つまり、わざわざ50万円(1TBでAppleCare込みだと70万円)も払って体験するようなデバイスとは言えない。それを体験することが直接仕事につながるような吾輩のような職業を除けば、無理して買うほどのことはないという感想だ。

もしもこれが半年以内に日本円で30万円で発売されても、僕は60万円だして新しいMacBookProを買うと思う。それくらい必要な人が限られるデバイスだと思う。

一番の問題は、結局のところウルトラスーパーメガ巨大企業であるAppleは、プライバシー保護を考慮に入れるとVisionProのカメラをアプリ開発者に解放することがとても難しい。しかし、VisionProのようなHMDとAIを組み合わせる上で一番大事なのはユーザーが「どこを」みているか「なにを」触ろうとしているかという情報であって、ここにそれまでのHoloLensが描いてきた世界観と根本的に異なるフロンティアがあるはずだが、それを作れるようになっておらず、XEROX Altoを見て劣化コピーのLISAと、さらに劣化した初代MacOSしか作れなかったApple Computerと、それと比較にならないほどの紛い物であるWindows1.0しか作れなかったMicrosoftの1980年代の歴史を振り返ると、今回はMicrosoftが切り開いたホログラフィックコンピューティングというコンセプトをとりあえずそのままなぞることしかできなかったAppleが、今後どこまでそれを活用できるのか、そしてプライバシーなんか知らないぜと嘯く新興勢力の台頭はあるのか、あるとしたら、それはいついかなる形式で発生し、対抗手段になり得るのか、という点に非常に興味がある。

間違いなく言えるのは、今のままではQuest3と比較も難しいということ。これ、Quest3で多画面活用してる人は本当にApple Vision Proじゃなきゃダメな理由を頑張って探しているんじゃないかと思う。

僕はVision Proでアプリを売る予定もないので、まあ好き勝手に言ってますが。

AIを中心におかない最後の世代のデバイス・・・になるのか、それともAIと現実世界のインターフェースはAppleが支配するのか(それはそれですごいディストピアだと思うが)

そんな世界をGoogleとOpenAI(featuring Microsoft)は黙って見過ごすのか。
いろいろと想像が膨らんで楽しい。

動画によるレポートは以下

AppleVision Pro持ってる人も気になる人も