ビブリオバトル


ビブリオバトルを知らない彼に、手持ちの本で戦うゲームだと教えた。

当日、彼は家庭の医学を持ってきた。

私は家にある中で最も厚いタウンページを持ってきた。さて、主催者にしてプレイヤーの委員長はいったい何を繰り出すのだろうか。私と彼は戦々恐々としていた。

委員長が手にしていたのはフランツ・カフカの『変身』だった。

ふざけるな!声を上げたのは新明解国語辞典を持ってきた赤瀬川だった。参加者の中でもとりわけ熱心な彼は、この日のために毎朝走り込み、夜は欠かさず素振りをおこなった。

委員長はそんな赤瀬川を一瞥すると、静かに言った。

「あなたたち、なにか重大な勘違いをしているようね。」

委員長に掴みかからんとした赤瀬川の大きな図体は、次の瞬間、図書室の冷たい床に転がっていた。
私と彼は口をあんぐりと開けたまま、委員長の華奢な指がさす方向を目で追った。
赤瀬川の眉間に、薄い文庫本が刃物のように鋭く深くめり込んでいた。


「大きいことはいい事ね。本を除いてのハナシだけれど。」


委員長が両手を広げ、こちらにゆっくりと歩み寄る。

さあ、【ビブリオバトル】を始めましょう――