連闘はファンサービスである(Mリーグ)

 麻雀はランダム性の高いゲームである。このため、幸運な和了りの続く選手には「風が吹いている」などとよく言われる。トップを連続で取れば「好調」と言われ、ラスを連続で引けば「不調」と言われる。しかしこれは「ギャンブラーの誤謬」である。
 赤坂ドリブンズの園田賢選手も同様のことを発言しているが、選手の好不調(あるいは「風」)は「結果」にのみ当てはまる事象で、未来の事象には当てはまらない
 連続でトップを取っている選手が次にトップを取る確率は25%前後であり、ラスを連続で引いた選手が次にトップを取る確率もまた25%前後である。確かに多少の実力差や、各人の戦略の違いによる相性などはある。しかし、それが着順に与える影響は、年間数十試合を戦うリーグ戦では統計上「誤差」の範囲に留まる(単純にサイコロを振るだけで着順を決めた場合と比較して有意な差を見いだすことができない、という意味)。実力の差をきちんと着順に反映するためには、数百~千試合程度の試行が必要だと考えられている。
 これはレギュラー・シーズン96試合のMリーグでも同じことで、平均して一人の出場回数はリーグ戦より少なくなる以上、選手ひとりひとりの実力がシーズンの成績に与える影響は誤差の範囲である。したがって、「好調の選手も不調の選手も、理論上は未来の試合におけるトップ率に有意な差は無い」と見なせる。

 もちろん、これは人間の直感に反する。

 誰の目から見ても、リーグで個人成績トップの選手と最下位の選手を比べたら勝ちそうなのはトップの選手に見える。麻雀のゲーム上の性質を知っている人間ですら、この心理から逃れることはできない。
 人間には、世界公正仮説というバイアスがある。選手が負けるのは不運だったからではなく、実力のせい、不利な選択のせいだと信じたくなるのである。相当深く牌譜を読まないと、このバイアスから逃れるのは難しい。通常は牌譜を読む段階で結果を知ってしまっているため、SNS界隈には後知恵バイアスに汚染された打牌批判がひしめいている。端から見ても地獄である(プロ雀士の牌譜検討配信を見ると、彼らは慎重に後知恵バイアスを排して自分の打牌を説明しようとしているのがわかる)。

 多くのファンは麻雀が想像より遙かにランダムなゲームであることを知らない。実況者や解説者はバイアスを煽るような発言を繰り返すが、これはそうした麻雀の(本当の)ルールを知らないファンに向けたサービスである。実際には彼らは現役または元プロ雀士であって、バイアスのない実況をしようと思えばできるのだが、そうすると間が持たないので煽らざるを得ないのだ。
 ファンは選手が「正しい麻雀を打ったから」勝利するのだと信じているし、「悪い麻雀」を打つと負けるのだと信じている。それは理論的には正しくないのだが、そうとわかっていても抵抗は難しい。
 これが通常のプロリーグであれば、選手は場外の雑音など気にせず試合に集中すればいいのだが、幸か不幸かMリーグはチーム戦であり、「ショウビジネス」の舞台でもある。チームを所有する企業やスポンサーは人気商売のところが多く、そうした企業に多くお金を出す人は麻雀のルールなどほとんどわからない一般人である。よって各チームは選手のモチベーションや体調、スケジュールの他に「ファンの目」を気にしながら選手を起用することになる。シーズン終盤に各チームが成績の良い選手を多く出すのはある意味ではファンサービスとも言え、むしろローテーション通りに登板させる方がバイアスに囚われないプロの采配と言えるかもしれない。

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