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中小企業勤務の立場から思う日本の中小企業政策

 以下は、日本の優良中堅企業(製造業)に勤める立場から、デービッド・アトキンソン著の「日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長」を読みながらまた日本経済新聞(2020年6月12日付けオンライン)の『中小企業庁やめて「企業育成庁」に』を参考にした私見である。

 人口減少が急速に進む日本において、経済力を維持するためには、労働生産性を向上させる他はない。以下、現在所属している製造業での経験をもとに製造業(中小企業)の労働生産性の向上を検討したい。なお、製造業に特に言及する理由は、日本において重要な雇用基盤であること、さらに経常収支にいて外貨を稼ぐ意味でも、日本の国際競争力・生存に直結する産業だからである。

 日本生産性本部の発表データによると、日本の国民1人当たりの生産性は、47.9ドルとOECD加盟国37か国中21位(2019年)、先進7か国中最下位、就業者1人当たりの生産性は、全産業で81,183ドル(2019年、OECD加盟国中26位)、製造業では、98,795ドル(2018年、OECD加盟国中16位)である。日本の生産性の低さの問題は、この通り深刻な問題である。

 結論から言うと、日本は、中小企業政策の根本的な見直しが必要である。重要性の高いもので一例をあげると、①中小企業基本法における資本金・人数の定義を拡大すること、②小規模事業者に対する優遇策を時限性等限定的にすること等を実施することは、もちろん所管官庁である③「中小企業庁」を「企業育成庁」と名称を変えることで、事業者・国民に意識喚起させることが必要である。

 これは、優良中小企業であっても、中小企業であることにより得られる税制・補助金等のメリットから無意識の内に今の規模が最適と思いこみ、規模の拡大を見送る傾向があることを実際に感じているからである。労働生産性を高めるために、優れた技術を持っている企業は、国内市場だけではなく、海外市場を獲得し、既に世界的なシェアを持っている企業であってもその関連技術から他の領域において転用・活用できる市場があるかないか常に調査・マーケティングを怠らないことが重要である。

 そのためには中小企業であることで満足させてしまう政策・制度は時宜にそぐわないのである。また、こうした海外でのマーケティング・事業管理において、中小企業は「人材不足」と嘆くことが多い。しかしこれは、結局生産性を高めることができない、つまり就業者に高い給与を提示することができない中小企業であること自身が原因であり、経営者自身が中小企業からの脱皮、生産性・規模の拡大を強く自覚し取り組むことと実は表裏一体の関係である。

 政府の政策実施機関として、中小企業投資育成株式会社がある。中小企業投資育成株式会社も、これから急速に進む人口減少が進む社会において、世界で活躍する企業を一社でも増やすべく、経営の自主性を尊重する経営の助言という立場を超え、時には規模の拡大のためにM&Aを促すというこれまでの役割を超えるものがこれからは強く期待されると考える。

 「『中小企業庁』を『企業育成庁』に改称する」、「中小企業の定義・範囲を広げる」、「規模の利益を得るためにⅯ&Aを促す」等これらの方針は、従来の方針と相反し、暴論と聞こえるかもしれない。しかしながら、現に加速度的に人口減少が進行し、人手不足(人材不足)も叫ばれる中で、労働生産性を上げることが喫緊の課題であることに異論はとらえる者はいない。加えて、大企業と中小企業の労働生産性を比較すれば、企業が成長による規模の拡大を図ることで、生産性の拡大を実現できることは、周知の通りである。

 多くの事業者・国民がこの事実をまだ直視することができないのでいるのであれば、2014年に増田レポートにより「消滅可能性都市」、「地方創生」という言葉が広く周知・認知されたように、今の我が国の中小企業がおかれている客観的な事実、人口統計に基づく客観的な予測を広く周知し、いかに事業者・国民に今の事態を認識させるか、こうしたムーブメントを起こすこともまた、重要であると考える。   

                      2021年5月1日(了) 





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