信天は願いを叶えるものではない

 人間は信天を持つことが最も大切です。「引き寄せの法則」というのを聞いたことがあるでしょうか。人は想いを強く持つことでそれは周囲の人や環境に影響を与えて実現へと近づきます。必ず達成して見せるという強い信念を持てば、思った通りの結果が得られやすいのは当然です。しかし、人間の願望が叶わないことが多いのは「こうありたい」と強く希望していながら、一方では「とても無理だろう」という諦めや疑いを持っているからです。馬庭念流の中興の祖、樋口定次は木刀で岩を真っ二つに割ったと言われていますが、信念がいかに強い力を持つかの良い例です。
 もちろん、信念を思い込みと置き換えると、悪い方向にも作用します。いわゆるノセボ効果です。毒だと思い込ませて飲ませると実際に死んでしまったり、水滴の音を流血と勘違いさせると失神するなどという実験で、プラセボ効果とは逆にノセボ効果があることは明確になっています。

 信天法はこの信念と言う概念を含んだものです。自己が万物と同じく宇宙の原理の中で生まれたのだから、宇宙や自然の一構成要素であり、道と一体化すれば宇宙のように完全であり無限にもなれるということに全くの疑問を持たずに信じることが信天です。
 しかし、信天は道の完全性、絶対性を信じ、道と一体化することを目標として行う一つの行法、過程であって、上述したような「引き寄せの法則」のように当面欲しいものを引き寄せたり、地位や金銭を求める方法ではない、という点が一般的に言われる信念と信天との大きな違いとなります。
 例を挙げると、貧しい人がお金が欲しいという願望を持って強い信念のもと、ビジネスに成功したとします。その人はお金に困ることはなくなり、贅沢な暮らしが出来るでしょう。しかしそれは幸せでしょうか。この人は幸福を得る方法を金銭に限定してしまいました。これは自我で定めた決定であって、道に沿った幸福ではありません。その為、何かを得ると同時に何かを失ってしまうのです。
 お金や地位や名誉などと言った即物的なものでは勿論なく、宗教や快楽のような精神的なものでもなく、幸福とは道と一体化することによって自然に得られます。むしろ幸福の方が道に集まってくるのです。

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