飽和黎明期

懐かしいあの子とふたり、月明かりの堤防を下る。スニーカーに染みる水は不快ではなくて、空気も吐息も澄んでいる。私たちは少しだけ若さに執着しつつも、諦めることの楽さに気づき始めていた。川藻が排出する二酸化炭素を、38℃に潜って眺めた。跳ねるニジマスや、若葉から滴る雫は輝いている。その美しさの全てを覚えていたかったれけど、そろそろキャパを超えるお年頃。過去の不要な記憶を溶かし、下流へ見送る。塩分の正体は人々の記憶で、溶けきらなかったものは現実へ持ち帰られるという。海に流れ着いたころ、目が覚めた。思い出せない誰かと何故か、同じ景色を覚えている気がした。

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