ピンクを拐う

駅のホームでおじさんが吐いたゲロに切なげなピンクが混じっていたので、この人はきっとどうしようもない恋をしているのだと気づいた。愛はあるべきところに集まるということに異議はない。おじさん、もっと吐いていいよ。可哀想なおじさんに水と見せかけた焼酎を与えた。私は、私が誰からも愛をいただけないことにも納得している。だけど余分な愛を丸く収めようとすることは、そんなに駄目なことなのかしら。悲しいことは忘れなよ、朝になればすっきりしているよ。震え泣いているおじさんをぎゅううっと抱き締めて、大丈夫だよってやさしいシスターの真似をした。そのピンクは私のものだ。悪いことをしたような、そうでもないような感情を背中に隠して、ふたりきりで終電を見送った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?