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C・S・エヴァンス、アーサー・ラッカム『シンデレラ』1919年初版

C・S・エヴァンス『シンデレラ』アーサー・ラッカム版1919年初版の挿絵を撮影したので公開する。ラッカムと言えば、美麗なカラーイラストで知られるが、時代は第一次世界大戦直前
後にあたり、貧窮と物資不足から塗料の調達が困難になり、苦肉の策として彼は影絵というスタイルに挑戦した。結果的に彼の新しいスタイルが確立されることになった。カラーイラストは巻頭に一枚のみ、その他は影絵、ところどころに三色刷りの影絵が挿し込まれた。

紙製カバー
紛失していることが大半で残っていることは珍しい
表紙
本書唯一のカラーイラスト
ラストのシンデレラと王子が結ばれる場面


『シンデレラ』のエピソードの原型は、古代エジプトの童話に由来する。『シンデレラ』の原型となる古代エジプトの童話は、古代ギリシアの歴史家ストラボンが記録している。『ロードピス』という童話である。古代エジプトのとある貴族の屋敷にロードピスという名の美しい女召使いが住んでいた。

外国人のロードピスは肌が白く、周りの女召使いからいつも虐められていた。そんなある日、ロードピスが可憐に踊っている姿を見た主人は、彼女を褒め、美しい薔薇飾りが付いたサンダルを贈った。他の女召使いたちはそれが気に食わず、ロードピスにより一層きつく当たるようになった。

それからしばらくして、ファラオが民衆を王都に招いて大祭典を催した。女召使いたちはその祭りに出掛けたが、ロードピスが祭りに行けないように、わざと膨大な仕事を押し付けていった。ロードピスは仕方なく言いつけ通り川で洗濯をしていた。その時、彼女は薔薇飾りのサンダルを誤って濡らしてしまう。

そこで、濡れた薔薇飾りのサンダルを岩の上で乾かしていたのだが、それをハヤブサが持っていってしまった。そして、ハヤブサはメンフィスに住むファラオの足元に薔薇飾りのサンダルを落としていった。そのハヤブサが天空神ホルスの遣いと思ったファラオは国中から薔薇飾りのサンダルに合う足の娘を探し、なんと見つかった際は結婚すると宣言した。

その後、ファラオの船がロードピスが住む屋敷までやってくると、彼女は始め身を隠していた。だが、ファラオが屋敷に潜むロードピスを探し出し、彼女に薔薇飾りのサンダルを履かせると、足のサイズがぴったりと合った。また、屋敷内でロードピスが持っていた薔薇飾りのサンダルの片割れも見つかり、ファラオは宣言通りロードピスを娶った、というシンデレラストーリーである。

先に述べたように本作の彩色画は巻頭のみで、他は全てシルエットで描かれている。第一次世界大戦直後の作品ということもあり、物資不足から彩色画を以前のように数多くは用意できなかった背景がある。英国の当時の情勢がアーティストの活動へ如実に影響していたことが分かる例で、ラッカムの作風の変遷を辿る上での重要な作品となっている。


Shelk🦋

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