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古代オリエント美術の世界

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なぜ古代文明なのか?それは古代について知ることは、現在の私たちについて知ることだからです。人間の基本的な部分は古代から変わっていません。そして何より、人間の歴史とは「戦史」でした…
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#ギリシア

東京国立博物館 特別展 『ポンペイ』 作品解説

ポンペイの記憶と記録___。 今回は現在、東京国立博物館で開催されている特別展『ポンペイ』の作品解説をしていく。展示のキャプション説明だけでは補えない部分を補足し、古代ローマの世界の面白さを伝えることができれば幸いである。数多くの作品が展示されているため、その全てを紹介できるわけではないが、見所となるメインは押さえていく。 通常、国内の展示では撮影が許可されていないことが多いが、本展ではありがたいことに撮影が許可されている。それゆえ、こうして展覧会の紹介できるわけである。

古代エジプト美術館を探検する:後編

今回は、タイトルの通り前回の記事の続きとなる。後編では、古代エジプト美術館の第三展示室(暗闇の間)を中心に紹介していく。 第三次展示室に入る手前に小さな廊下が存在する。この廊下も照明が敢えて付けられていないため、懐中電灯での探索が必要となる。照明がないため、勝手ながら暗闇の廊下と便宜上、命名した。ちなみに探索に必要な懐中電灯は、入場時の案内であらかじめ手渡されるので、持参する必要はない。 足下を見ると可愛らしい猫が何やらボードを持って佇んでいる。そこには、フランスの考古学

古代エジプト美術館を探検する:前編

今回は、東京・渋谷にある古代エジプト美術館について紹介していく。菊川匡 博士によって創設された日本で唯一の古代エジプトの専門美術館である。当館は博士自らの手で収集されたコレクションが展示されている。博士の審美眼によって集められた選りすぐりのコレクションが堪能できる。 膨大な量のコレクションが展示・収蔵されているため、前編と後編の2回に分けて紹介していく。前編ではエントランスと第一展示室及び第二展示室を紹介し、後編では第三展示室の暗闇の間を紹介する。暗闇の間とは何なのか?と疑

古代ローマの疫病 | 大帝国を襲った死の旋律:後編

前回に引き続き、今回も古代ローマで流行した疫病についてを取り上げる。前編では古代ローマで起こった天然痘について紹介したが、後編ではマラリアについて言及していく。マラリアも天然痘と同様に古代ローマの人々を苦悩させた病のひとつであり、多くの人間がその命を落とした。もともと沼地が多いローマは、マラリアを媒介する蚊の巣窟だった。加えて、軍の移動や商人らによる交易品の流入が頻繁だったため、感染症のリスクを大きく背負っていた。 マラリア マラリアは、マラリア原虫によって引き起こされる熱

古代ローマの疫病 | 大帝国を襲った死の旋律:前編

前回に引き続き、今回も古代で起こった疫病の流行をテーマとして扱う。前回は古代エジプトを襲った結核を中心とする疫病についてを紹介した。今回は、タイトルの通り古代ローマで起こった疫病を主題とする。古代ローマでは様々な病が人々を苦しめていたが、中でも特に猛威を奮い、帝国を衰退にまで追いやった「天然痘」と「マラリア」を中心とした疫病の恐怖に迫っていく。本記事は前編と後編の二回に分け、前編は天然痘、後編はマラリアを扱う。 古代ローマ人は、細菌やウイルスなどの目に見えないものから被る病

古代エジプトの疫病 | ナイルの恵みがもたらした恐怖

エジプトのナイルの氾濫は肥沃な大地を形成する恩恵の象徴としてよく紹介される。だが、実は同時に疫病を運ぶ恐ろしい側面も持ち合わせていた。今回は、華々しい古代エジプトの歴史の影に隠れた暗い側面にスポットを当てつつ、人間の遺骨や文字資料から読み取れる当時の疫病についてを探究する。 古代エジプトのナイルの神ハピを描いた壁画。ナイルの豊かさを象徴し、ふくよかな身体付きをしている。カルナク神殿壁画一部。 病気が人間の遺骸に痕跡を遺すとは限らない。特に熱病の場合は痕跡を遺さない傾向にあ

厳選パキスタン・アフガニスタンの考古遺物の見どころ

土器やガラス、石製品は腐ることがないので、後世に残りやすい性質を持つ。また、パキスタン・アフガニスタンをはじめとする西南アジアのような乾燥した気候帯では、そうした古の品が優れたコンディションで現存する。今回は、そうした地域で発掘された古代の品々を厳選して紹介していく。以前にもこの手の品々は紹介してきたが、今回は時間がない人のために見どころを簡潔な形で説明したい。特に最後に紹介する銀化ガラスは美しく、世界的にも評価が高い考古遺物であるので、撮影した写真だけでも眺めていってほしい

オリエント美術の世界 〜ウジャトの護符と贋作の見分け方〜

ツタンカーメン王墓から発見されたウジャトの護符を、現代の職人がイラスト化してパピルスに描いたもの。コブラの女神ウァジェトとハゲワシの女神ネクベトがウジャトの装飾の一部として共に表されている。この二柱の女神は王権の主義者として崇拝されていた。 「ウジャト」とは古代エジプト語で「再生、復活、健康」の意。天空神ホルスの失明した片眼が治癒したエピソードに基づいており、護符等のモティーフにされることが多い。 画面右側で腰掛ける白い装束の男神がオシリス。死者をオシリスの前に案内し