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アンティークコインの世界

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前7世紀に世界で初めて金属製の円形コインがリディア(現在のトルコに位置した古都)で発行された。物々交換の効率の悪さから解放され、小さく軽く携帯しやすいコインによって人間はさらに商…
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2019年8月の記事一覧

アンティークコインの世界 〜アレクサンドロス大王の肖像〜

ある程度コインを目にしていると、似たようなデザインでも細部が異なることが気になりはじめてくる。アレクサンドロス大王のコインがそのひとつの例と言えるかもしれない。アレクサンドロスは、強国ペルシアを破り、マケドニア大帝国を築き上げた英雄としてその名が現在も尚、語り継がれている。カエサルやアウグストゥスなどの古代ローマを代表する偉人たちでさえ、強い尊敬を抱いた人物である。そんなわけで、当然アレクサンドロスの肖像を刻んだコインは人気の高いモティーフとして地中海世界の各地でつくられた。

アンティークコインの世界 〜コインの入手の仕方〜

アンティークコインを入手する方法はいくつかある。 まずは店頭。そして、ネットが挙げられる。 ネットは通販とオークションの二通りに分けられる。 ネットでの入手は手軽な反面、贋作などの出品も多いので、個人出品者からの入手はあまりお勧めできない。実績と信頼のある出品者は別として。 オークションはコレクターからレア度の高いものが出品されることがあるが、欲しい人がいればそれだけ価格も上がるので、法外な値段になることもあるので注意したい。 個人的には、手間でも交通費がかかっても、店頭に足

アンティークコインの世界 〜収集ジャンルの決め方〜

基本的に集めたいもの、興味のある時代、デザインが直感的に気に入ったものを集めれば良いと思う。だが、一般的にコレクションには統一性があったほうが良いとされる。私はメインコレクションを古代ギリシア・ローマコインに置いている。サブコレクションは、ヴィクトリア朝イギリスと同時代に関わりがあった周辺諸国という感じだ。私の場合、拙書『アンティークコインマニアックス』の構想が何となくあったので、歴史の流れのシナリオに沿って収集していた。つまり、ギリシア・ローマコインのはじまりから終わりまで

アンティークコインの世界 〜アンティークコインとの出会い〜

初めてアンティークコインを目にしたのは、二年前の夏だった。日本橋で偶然立ち寄った古書店のガラスケースに古代ローマコインが飾られているのが目に留まった。摩耗と錆が激しく、何を描いているのかよくわからない。英語の説明書きが添えてあるものの、説明というよりは簡易的な情報でその時の私を何ら説得させるものではなかった。最初の印象は正直なところ、小汚いなというもので触りたいとも思わなかった。錆や砂が手についたり、服が汚れたりしたら嫌だった。これから人に会う約束があるし、純白のシャツに赤錆

アンティークコインの世界 〜アンティークコインとの出会い ・続〜

気が滅入るような暑さだったが、遠くに浮かぶ入道雲の白さが夏の青春を感じさせる、そんな日だった。 その日は午後から研究会だった。私は数日前に見かけたローマコインのことなどとっくに忘れ、発表予定者の研究概要が記されたレジュメを読み込んでいた。会場である大学の教室に入ると、外の暑さとは正反対で、冷蔵庫のように冷えきっていた。これはよくあることだから、私は鞄の中からカーディガンを取り出し、羽織りながら空いている後ろの方の席に腰掛けた。 どの研究報告も魅力的だったが、歴史上最後の

アンティークコインの世界 〜なぜコイン収集なのか?気になるコインの価値と投資〜

なぜコイン収集なのか?いろいろ理由はあるが、まずデザインが美しく、情報源が豊かだからというのが個人的な理由だ。当時のコインは手づくりだから、どれひとつとして同じものは存在しない。そこに夢がある。また、その図像からは当時の人々の文化、習慣、宗教、言語など、数多くの情報が読み取れる。直径数センチの金属の盤に、よくあれだけ多くの情報を盛り込んだと感心する。コインには当時の宗教的シンボルやビックニュースが刻まれることもあったから、歴史家の記述が本当だったのかを検証する手がかりにもなる

アンティークコインの世界 〜研究テーマを設けよう〜

アンティークコインを手に入れたら眺めているだけでも十分だが、自分なりの研究テーマを設けると面白いかもしれない。投資に利用するにしても、知識があると説得力につながるから、結果それが顧客の購買意欲を促進する。コインについてよく知っておくことに損はないだろう。 私の研究テーマはローマ帝国下のエジプト属州貨である。個々の意匠がなぜ採用されたのか、そもそも描かれているものは何なのかを追求している。例として、私が現在研究しているコインを挙げよう。 どちらもハドリアヌスの治世にエジプト