呼び捨て

3歳から6歳までアメリカに住んでいた私は小学校入学に合わせて日本に帰ってきた。もうあまり覚えていない小さい頃の話である。

入学式を終え各クラスで何か自己紹介や簡単なオリエンテーションが行われたような気がする。その後なぜか同じクラスになった男の子に話しかけた。内容はなんだったのか覚えていない。

ただ、そこからの記憶が鮮明だ。

「呼び捨てすんな」

私の記憶に残るドキッとした思い出で1番古いものだ。
話しかけた相手が怒っている。意味がわからない。
けれど理由をはっきり言っている。

呼び捨て

きっとアメリカの時と同じようにその男の子に話しかけたんだろう。そういえば小学1年生から名札を服にいつもつけるようになっていたと思う。小1だと苗字と名前はひらがなだったろうから読めていたかもしれない。そしてそのまま声に出してその男の子の名を「くん」も「さん」つけずに言う。  

なんだコイツ

実際はどんなふうに思っていたのかはわからない。けれどこれに似た感情が湧いたから「呼び捨てすんな」という一言が出たのだ。

はるか昔の小学生生活の始まりの思い出は、他には何も思い出せないのにこれだけが鮮明だ。 

その子とは部活動も一緒に行い、特に険悪な交友関係とはならず、小学生時代一緒に過ごした同級生のまま終わる。今は交流はない。

今になって思うのは、あの一件があってよかったという思い。もしあの子ではなかったら、別の子だったら、はっきりと言ってくれただろうか。呼び捨てするヤツがあのクラスにいるとか、変に距離が近いヤツがいるとか、嫌な第一印象を大勢に与えた小学生生活をスタートしていたかもしれない。

子供の言葉は素直で率直だ。嫌な思い出かと思いきやこんな思い出に変換してくれる年月というのも、まあ悪くない。

#やさしさを感じた言葉

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