カンペ

九九を覚えるのは大変だった。

確か小学2年生の時に九九を覚えさせられた。
授業中に2から9の九九のどれかを覚えたら先生の前に立って暗唱する。その時算数の教科書の九九のページを先生の方に向ける。生徒は背表紙を見ながら声を出すわけだ。

私は同級生の中では比較的に早く覚えられた記憶がある。クラスの中で5番目か6番目に先生の前に立って暗唱した。何の段の九九だったかは覚えていない。

けれど7の段の九九だったと思う。間違えた。一回席に戻って暗記のやり直しを行った。ものすごく悔しかったのか、暗唱できなかったことが恥ずかしかったのか、目頭が熱くなってちょっと泣いてしまっていたと思う。こんな簡単なことができない自分に腹立たしくて憤る、今、大人になってもよくおちいる心情と一緒で、この頃から私は私なんだなと感じさせる思い出のひとつだ。

他の子たちが先生の前に並んで暗唱しているのを再暗記を横目にチラチラ見ていた。その時ふと思った。先生の見えない位置に7の段を背表紙に書き込んでそれを暗唱の時に読めばいいじゃないかと。

結果どうなったかと言うと、バレた。

目線ですぐわかったのだと思う。小学2年生、7歳の子供のアイデアというのは詰めが甘い。目線のことなど考えてもいない。当然先生に背表紙を見られ叱られた。幸いだったのはその時他に並んでる子がいなかったことだ。皆暗記に集中していたのか私の小細工が先生以外に知られなかった。先生も意図があったのか大きな声で叱らず割と普通のトーンで注意するに留め、私が鉛筆で書いた7の段を消して暗記のやり直しを命じた。

先生にだけ私の小細工が知られただけで、その後クラスに私がズルをしたとか卑怯なことをしたとかで話が膨らむことはなかった。

今思うとアホなことをしている。
見栄だ。
暗記するスピードで他の子に勝ちたかった。自分はすごいんだと威張りたかった。
アホアホだ。

大人になってそれに似たことをしたら、きっと信用を失くすことになる。
あの頃、あの時にやった記憶がまだ印象に強く残っているのはいいことかもしれない。

いい教訓だ。
先生にも恵まれていたと思う。

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