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ある男性音楽ファンがENDRECHERIとKinKi Kidsのライブを観た夏の記録

先日サマソニでENDRECHERIのライブを観て感想をツイートをしたら、通知が止まないほどの反響があった。

彼がどういう音楽をやっているかは理解していたつもりだったし、サマソニ前にはサブスクで予習もしていった。音源では打ち込みも多用していて、どちらかというとミニマムなサウンドを想定していたのだが、実際に観てみると大きく印象は変わった。フジロックのFIELD OF HEAVENで、アメリカの田舎から来た知らないバンドが鳴らしていそうな大所帯モノだったのだ。しかも堂本剛 with バンドメンバーといった感じではなく、十数人いるバンドの一員としてメンバーと対等に渡り合っていた事にも驚いた。

そもそもENDRECHERIは彼のソロプロジェクトである。本人名義ではないといえフロントマンでありブレーンなのだから普通だったらもっと主張してよいはずだ。しかしファンクという音楽は高度なプレイヤビリティーが求められるジャンルであり、自然とメンバーそれぞれに見せ場ができていくのも理解できる。以前彼が敬愛しているというジョージ・クリントンのライブをラスベガスで観た際、高齢という事情があるとはいえジョージは時折椅子に座り、その間は全てのパフォーマンスを周りのメンバーに任せていた。ジョージ・クリントン with バンドではなく、ジョージ・クリントン&オールスターズのような印象だった。前に出過ぎず、その空間に溶け込んで仲間と音楽を楽しむスタイルはこういったところからも影響を受けているのかも知れない。

とは言え楽曲は本人のセンスが色濃く反映されており、大味ではなく繊細な感性が随所に見られるものだった。ファンクマナーを吸収した上で自分のフィルターを通して表現しているのがよく伝わってきて、ただ多幸感に溢れているだけではなくネガティブな気持ちも全て含めて消化していくスタイルがとても彼らしいと思った。長く応援しているファンは堂本剛という人間の精神性をよくわかっているのだろうし、その想いが反映された楽曲が届く事にもきっと大きな意味を感じているのだろう。

考えてみると、数多ある日本のバンドの中でもこの手の大所帯ファンクで商業的に成功しているケースは稀である。それが可能になったのは、やはりジャニーズパワーとアイドルとしての人気にあるのは否めない。しかしそれでも、今のようなクオリティに至るのは容易ではなかっただろう。そもそもあの人数のバンドメンバーのスケジュールを押さえ、ツアーをまわるのは結構大変なはずだ。アイドルグループのメンバーがソロでツアーをやるとしても、もっと簡単なやり方は幾らでもあると思う。

しかもジャニーズのファンが、このような音楽性を最初から求めていたとは思えない。ソロデビュー当時の「街」のような曲が好きだった人は、マニアックな嗜好が反映されるに伴って彼の活動についていけなくなった可能性もある。今のような音楽性は「ファンが喜ぶかどうか」よりも、「本人がやりたいもの」を選んだ結果なのだろうし、個性を突き詰めていく事で結果的にファンにはある種のふるい落としも起きたのではないだろうか。

今残っているファンは、それでも彼についていく事を選んだ人である。本人にとっても、自分がやりたいものを発信してファンが喜んでくれるのだから大きなやり甲斐を感じるだろう。強固な信頼関係にあるファンならもうそうそう離れる事はないだろうし、堂本剛が仲間とファンと築き上げてきた世界観がそのファンダムの外にも伝わった今回のライブを祝福し誇らしく思う、そんなここ1週間なのだと推測する

今回のライブでは、女性中心とはいえ男性客の姿も見られた。そしてその多くが好意的な評価だったと認識している。ジャニーズと言えば女性ファンが大多数なのは周知の事実だが、先日見かけたあるツイートには「30~40代男性の「KinKi Kidsが好きでした」カミングアウトが相次いでるな...!」と書かれていた。

詳細な実態はよく分からないのだが、確かに男がジャニヲタを公言する空気はここ数年進んできていると感じる。最近はTwitterでも男性のジャニーズ用アカウントを見かける事があり、数組がロックフェスに進出するなど、男性がジャニーズを応援する心理的ハードルは下がっていると思う。これはかつての状況から比べると大きな変化で、例えば90年代に発行されていた『ジャニーズJr.名鑑』にはファンたるもの守るべきマナーについて書かれているページがあり、「タレントに好感を持たれる理想の女性になって下さい」と、その対象が女性である事がはっきりと明記されていた。

しかしジャニーズ入りを目指すのは全員男性であるし、ファンである女性にも男性の家族や恋人がいて、その情報は自然と耳に入ってくる。ファンを公言しないまでも、ジャニーズの音楽は多くの男性の耳に届いているはずなのだ。かくいう自分も母がよく見ていたSMAPを聴いて育ったし、KinKi Kidsはデビュー当時からリアルタイムである。初期作品はよく聴いていて、特に『B album』は紛うことなき名盤だと思う。「硝子の少年」「愛されるより愛したい」「ジェットコースター・ロマンス」が1枚のオリジナルアルバムに入っている時点で驚異的だが、最も好きなのは1曲目の「スッピンGirl」である。冒頭のフェイクからなだれ込むフュージョンのようなグルーヴには、昔も今も心踊らずにはいられない。

6月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』の山下達郎特集では、達郎さん本人が「硝子の少年」の誕生秘話を告白していた。その際、「"フォーリーブス"を聴いていたママとKinKi Kidsを聴いている小、中学生を繋ぐもの」という意図があった事が明かされていた。母がまさにフォーリーブスのファンだったので狙い通りに"してやられた"とも言えるが、音楽を深く聴くようになるにつれて達郎さんも大好きになったので、ルーツの答え合わせのような気がしてとても嬉しかった。

KinKi Kidsは今年25周年を迎え、久々に達郎さんが書き下ろした楽曲「Amazing Love」をリリースしている。この曲もだが、改めて考えてみるとKinKi Kidsはジャニーズトップレベルの名曲の宝庫だ。25周年にまつわる怒濤のメディア露出でもその事実を再確認し、遂には先日開催された25周年の東京ドーム公演にまで足を運んでしまった。男ひとりで、だ

大阪公演のセットリストを事前に見ていたので、代表曲満載の内容になるのは分かっていた。「Kissからはじまるミステリー」「硝子の少年」「ジェットコースター・ロマンス」「Amazing Love」と達郎さんワークスも多数披露されるだけでなく、『A album』から初期の代表曲として「FRIENDS」と「たよりにしてまっせ」がセットリスト入りしたのもポイントが高い。KinKi Kidsのライブは彼らがキャリア史上初めて外部のライブイベントに参加したテレビ朝日ドリームフェスティバルで一度観た事があるのだが、当時披露されなかったヒット曲も今回は多数組み込まれていた。またストリングスを含めた大所帯フルバンドセットで行われるライブはジャニーズの中でも異色であるし、その中に堂島孝平が参加していたのも彼のリスナーとしては嬉しい。普通にMCにまで入ってくるのには驚いたけれど。

以前からKinKiのライブはMCが多いとは聞いていたが、確かに想像以上に多かった。1曲歌ってまたMC、なんてアンコール以外で起こる事は普通そうそうない。今回は25周年という節目からキャリアにおいてターニングポイントとなった楽曲が中心だったため、当時の思い出話に花が咲き「薄荷キャンディー」の"白い歯 舌見せて笑う"がどんな顔なのかで長々と議論し続ける2人に笑うしかなかった。是非YouTubeで選手権を実現していただきたい。

ライブはコロナの感染者数がピークを迎えた頃に開催されたため、勿論声援は禁止である。「全部だきしめて」ではAメロで定番のコールがあるが、それもお預けとなった。しかし先日フジロックに行った身からするとKinKiファンの方は驚くほど声出し禁止ルールを守っており、そのマナーのよさについては光一も言及していた。成熟した大人がファン層の中心であるのも一因だとは思うが「このまま手をつないで」と「Anniversary」でアリーナを周回した際も、本当に歓声が起きなかった。両曲ともバラードアレンジになっており、しんみりした雰囲気のまま2人がファンの近くを通っていく異様な空間だった。そしてラストの「Amazing Love」では全員に配られていた使い捨てのサイリウムを各々が点灯し、ドームに虹ができるという感動的な演出もあった。コンサートをイメージしてこの曲を作詞したという2人の思いが結実した瞬間だったと思う。

改めて触れてみると、KinKi Kidsは古き良き歌謡曲の正統後継者であり、最初からシーンの真ん中とズレていたのだと思う。しかしトレンドに乗ろうとしなかった事で確立してきた「らしさ」が今、実を結ぼうとしている。何故ならKinKi Kidsの音楽は現行シーンにおいて再評価されている昭和歌謡やシティポップとリンクする部分があるからだ。また似たポジションにあるグループもないため、ジャニーズの他のグループとは違うリスナーを獲得できる余地が未だあるように感じる。

会場には男性の姿も見られたがその多くは女性と一緒だったようで、男ひとりで乗り込むのは未だ少々勇気の要る行為だと感じた。しかし、これからはジャニーズの現場に男性が増える。かつて9割男性が当たり前だった女性アイドルの現場にここ10年で女性ファンが増えたのと同じ事が起きるだろう。その理由として以下のような点が挙げられる。

配信やサブスクなどネットに消極的だったジャニーズ事務所が、徐々にその方針を転換してきている。KinKi KidsにおいてもYouTubeチャンネル開設、ソロワークスのサブスク解禁、Amazon Primeでのライブ映像公開といった動きがあった。(本当はKinKiのサブスクを解禁すべき)

FCに入っていないと入手できなかったチケットが僅かながら一般発売され、ライブへ行くハードルが下がっている。

・単独ライブが基本だったジャニーズだが、関ジャニ∞やジャニーズWESTなどがフェスにブッキングされ、多様なミュージシャンからの楽曲提供も含めその音楽性に注目される機会が増えている

とは言え現在の客層はまだまだ当たり前に女性が中心であり、参加するには少しハードルが高い。今回は自分自身が元々ジャニーズ好きでかつアクティブな音楽ファンだったからこそ行ったようなものだ。男性客が増えるにはもう少しタイムラグがあると思うが、KinKi Kidsは優れた音楽性、媚びないキャラクターなどジャニーズの中でも同性が支持しやすい要素が多くある。男性音楽ファンよ、KinKi KidsとENDRECHERIはいいぞ。

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