見出し画像

冬のアサガオ 12

もしも自分がクラスのヒーローになれたら
もしも自分が誰よりも早く走れたら
もしも自分が好きな人を笑顔にできたのなら

朝凪「うーん、悩むなぁ」

体操着で地面に座りながら悩む朝凪の横顔に見とれていた

朝凪「ねぇ、神田くん ここの振り付けなんだけどさ。……あれ?神田くん?」
神田「あ、ごめん。何の話?」
武林「おいおいしっかりしろよなぁ 企画進行リーダーお前なんだから」
神田「ご、ごめん。振り付けの話だよね」

よくある妄想だ

もし対抗リレーで1番になって相手に逆転勝利する演出を自分が出来たら
騎馬戦で最後の一騎討ちになって勝ち取れたら
好きな子の応援で覚醒する体育祭の自分

なんて妄想だ

神田「はぁ、、、はぁ……武林……まって」
武林「なんだぁ?お前運動しなくなって体力ガタ落ちじゃねぇか」
神田「お前が……早すぎんだよ…はぁ」
武林「お前、俺と同じリレー選手に選ばれてんだからしっかりしてくれよ〜?」

朝凪「2人ともー!」

膝をつきながら顔を上げると、赤組のハチマキを付けた朝凪がペットボトルを2本持って駆けつけてきた

朝凪「武林くん、あんまり無理させちゃダメだよ?はい、2人ともしっかり水分摂ってね」

天使だ……

神田「痛った!!」

おしりに思い蹴りが入った

佐々岡「なーにへばっちゃってんの?武林くん凄いね!ホントに足速いんだ」
武林「な、なーにこんなの朝飯前だよ芽久里ちゃん」

神田「なーに照れてんだか……」
朝凪「ふふ……」

こんな毎日を過ごして気づけば本番3日前になった

すっかり夕日が沈むのが早くなり
僕たちは応援団の練習を終え、珍しく4人で帰ることにした

朝凪「ねぇみんな」

自販機の前で朝凪が立ち止まった

朝凪「今からゲームしない?」

突然の提案に少し戸惑いながらも
佐々岡は受けて立とうとした様子で朝凪に聞き返した

佐々岡「ゲームって?」
朝凪「そーだなぁ、私に関する問題。3問連続当てることが出来たらジュースを恵んでしんぜよう!でももし外れたら、誰か私にジュースを奢って!」

武林「面白そうじゃん!やろう!」

朝凪の事……
そういえば、俺朝凪の好きな物とかあんまり知らないんだよな
趣味が花観察と読書ぐらいしか

朝凪「じゃ、第1問!わたしの誕生日は?」
佐々岡「沙耶……あんた舐めてる??」
朝凪「あちゃー、簡単すぎたか。」
佐々岡「そうだね。でも2人はどうかな」

朝凪の誕生日……やばいそういえば聞いたこと無かったな……
1問目からミスるのはさすがに朝凪も悲しむ……やばい
こうなったら一か八か!

一同「せーの」

佐々岡「12月24日」
武林「12月24日」

神田「11月の!!!!……あ、あれ???」

朝凪「はい、神田くん脱落〜」

物凄く無邪気な顔で笑われた

神田「た、武林……?なんでお前知って……」
武林「ん?あぁ、クラス名簿に何故か載ってた」

そうだ、そういえばこいつクラス名簿とかチェックするタイプだった……

すると佐々岡が耳打ちで僕に伝えてきた

佐々岡「ちょっと、あんた好きな子の誕生日ぐらい覚えておきなさいよ」
神田「な!ち、違……ち、ち、違う!」
佐々岡「焦りすぎでしょ……」

朝凪「どうしたの?2問目行くよ?私の好きなジュースは?」

武林「あ、、、ギブ……」
佐々岡「私は分かるわね」

朝凪の好きなジュース。
確か、朝凪のおばあちゃんが病室に持っていってた

佐々岡「ファンタグレープ」
神田「ファンタグレープ」

朝凪「え?神田君……しってたの?」
神田「あ、いや。確か病院で置いてあったなって」
朝凪「見ててくれたんだ」

少し意外そうな顔をして、運動後のせいか顔を赤らめた頬をした朝凪は続けてこう言った

朝凪「でも残念。神田君は失格だからね!」
神田「わ、分かってるよ」

朝凪「じゃあ最後の問題……私の夢は?」
佐々岡「アンタの夢……?確か、お嫁さん。」
朝凪「ちょ、ちょっと!芽久里!それ小学生の頃の夢だから!」
佐々岡「あれ?違うの?いいと思うけど?」

少しからかい気味に話す佐々岡に
頬がより赤くなった朝凪につい見とれてしまった

朝凪「はい、全員不正解!」
武林「じゃあ正解は?」

朝凪は少し言葉を詰まらせながらこう話した

朝凪「私の夢は この学校を無事卒業すること!みんなで泣いて笑って最高の卒業式にしたい!もちろん体育祭も成功させたいし皆でもっともっと思い出作りたい!」

思わず言葉に詰まった。彼女からその言葉が出た瞬間 彼女の目は寂しさよりも どこかキラキラしていて希望に満ちた瞳だった

武林「将来の夢ってそんな感じだっけ?そんなのすぐじゃん」
神田「た、武林!」

朝凪「神田君。もういいの。多分みんな知ってると思うし、武林だけ知らないなんてなんか違う気がするの。」

佐々岡「沙耶……あんた。」

朝凪は少し震えた声で話した

朝凪「私ね、病気なの。小学生の頃から見つかった病気で。私最近倒れたでしょ?それで……思ったより悪化してて、あと2年。3年生の夏頃が山だって言われた。」

武林は少し驚いた表情をしたが
すぐになにか決意したかのように話した

武林「そっか。なら、」

武林は財布から小銭を取りだし
ファンタグレープを朝凪に渡してこういった

武林「絶対卒業しような。と、その前に体育祭だ。絶対優勝して、いい思い出作ろうぜ」

朝凪「武林君……。うん。ありがとう」

完全に落ちた夕焼けから
少し肌寒い風が吹く
でも心の奥が少し暖かく
少しずつ、僕らの物語が積み上げられていく感覚を感じながら、駅のホームでまた明日の約束をした。


次回に続く

この記事が参加している募集

#今こんな気分

75,287件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?