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出版不況から、人生のフローとストックについて考えてみる。

90年代後半から、長いこと右肩下がりだと言い続けられている出版業界。

活字離れが騒ぎ立てられ、ネットが普及してからは、特に雑誌ジャンルが壊滅的なダメージを受け、一世を風靡したような人気雑誌までも休刊が相次ぎました。出版物の電子書籍化や、Amazonなどの通販のインフラ化も進み、リアル書店は次々と閉じています。コロナ禍での外出自粛なども、大きく影響を与えました。出版物については、最盛期の売り上げから半減した、というようなデータもあります。

そんな長期不況のトレンドにありながら、大手出版社が潰れたというようなニュースは聞いたことがありません。中小出版社の買収などは散見されますが、どうやらこのご時世でも出版社経営は成り立っているようです。


では、それは一体なぜなのか?

適当に理由を考えてみますと・・・。もともと出版業界は利益率が高いから、多少の売り上げ減でも保てている、ということがあるかもしれません。本は作家と編集者などの少人数で作れますし、印税や紙代などの経費は最初から決まっています。あとは部数さえ間違えなければ、利益は出やすい、と言えるかもしれません。

また、電子書籍に売り上げの比重が変わり、実際は出版社の取り分が減っていない、という可能性もあります。不況にあおりは取次やリアル書店にダメージを与えているにすぎず、根っこの出版社へのダメージが抑えられている、ということも考えられます。

また、鬼滅の刃などに代表とされる粗利率の高いコミックの収入が大きく保てているから、というのも考えられます。コミックは単体ではなく、何巻も出版されるので、一粒で二度、三度と美味しい、という構造があるのかもしれません。

どれももっともらしい理由には思えます。


出版不況において出版社が倒産しないのはなぜか?
この謎を解くキーワードとして、「フロー」と「ストック」というとっても使い勝手の良い対立概念を持ち込んで考えてみると、あっさりと答えがわかります。

フローとストック。

意味合いとしては、フローが流れていくもの、ストックが溜まっているもの、ということになります。もともとは経済用語で、例えば会計の世界ではフローが売上や出費、ストックが資産や負債に当たります。

これを出版物の世界に当てはめて考えると、フローが毎月発売される「新刊」で、ストックが昔からのベストセラーなどのいわゆる「ライブラリー」になると思います。

出版業界では、長年返品や在庫に苦しめられてきました。新刊を出しても、40%の返本率、なんてのもザラ。出荷されそれが戻される。まさしくフローの言葉通りの流れです。

一方で、少しずつでも継続的に売れ続ける本、辞書だったり、名作だったり、ベストセラーの絵本だったりは、出版社における財産であり、これがストックとなります。

つまり大きくて歴史のある出版社は、当然ライブラリーの点数も豊富ですから、ストックでの売り上げが確保され、これが経営の屋台骨を支えている、ということです。

ストック(ライブラリー)で支えてもらいながら、フロー(新刊)をなるべく多く出版して、これをストック化させる。これが出版社の黄金パターンとなっております。

また、電子書籍は伸長している分野ですが、ストックが積み重なっている出版社であれば、ストックをデジタル化することで元手がそれほどかからずにマネタイズできる、というようなこともあります。

このように、財産となる部分、出版社で言えばライブラリーが、大きな業界の構造変化があったとしても、その荒波を超えていける下支えとなってくれるのです。


このフローとストックの考え方は、他にも色々な局面に当てはめることができます。

例えば将棋で言えば、ストックは基本の手筋や定跡と言われる部分、フローが最先端の流行形や新手の部分となるでしょう。新手(フロー)が指されたとしても、定跡や過去の類似局面(ストック)から対応策を考える、というような場面が良く見られます。その一方、過去の定跡(ストック)に頼ってて最新型(フロー)の勉強を怠ると、新しいストックが増えずに数年後に苦労することとなります。

今、将棋に例えましたが、勉強一般がそうなのかもしれません。常にフローを獲得し、ストックしていく。仮にフローが取り込めない時期が来たとしても、ストックによって延命できるかもしれません。


仕事において、僕は現場主義・最前線主義ですが、常に新しく浮かび上がっては消えていくもの、そういうトレンドを億劫でも吸収していかなくてはなりません。黙っていれば、ただ右から左へと流れていってしまうフロー。けれど、それを毎回丁寧に手ですくっていかないと、新しいストックは溜まっていきません。

今手元にあるストックだけを使って仕事をしていると、数年後には確実に稼げなくなる人間となってしまうのです。

ああ、恐ろしい。


ということで、いつもは藤子ネタ(ストック)を推敲して原稿を書いていますが、本日は今朝思いついた話題(フロー)で記事を書かせていただきました。また、明日から藤子Fネタに戻ります。

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