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「パーマン」第一話完全解説!~初期設定の揺らぎ~/考察パーマン①前半

「パーマン誕生」
「週刊少年サンデー」1967年2号/藤子・F・不二雄大全集第1巻
「パーマンとうじょう!」
「小学三年生」1966年12月号/藤子・F・不二雄大全集第2巻
「パーマン登場!」
「小学四年生」1966年12月号/藤子・F・不二雄大全集第3巻

「パーマン」は一世を風靡したオバQブームの沈静化を受けて、仕掛けられた作品で、複数の雑誌での連載開始とアニメ化の発表を一挙に行ったメディアミックスの走りのような作品である。

まず「小学三年生「小学四年生」の1966年12月号から連載開始。明けた1967年2号からは、メインとなる「週刊少年サンデー」でも連載が始まった。

先行して描かれた学年誌2誌の初回タイトル「パーマンとうじょう!」「パーマン登場!」では、サンデー版初回と大きく異なる設定がある点が目を引く。学年誌⇒サンデーと描かれた時系列に沿って読み進めることで、F先生の試行錯誤が追体験することができる。

大きな相違点としては、パーマンマスクのデザインであろう。学年誌版ではマーベルコミックに出てきそうなヒーロー然とした印象を与えるデザインとなっており、マスクを授けるスーパーマン(バードマン)のコスチュームも全く違う。

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ちなみに、1983年に刊行された「藤子まんがヒーロー全員集合」のパーマンの創作メモのところで、先行した学年誌ではコスチュームのデザインが違っていたとF先生が明かしている。当時この文章を読んだ少年の僕は、すぐに読みたい!と思っていたが、その思いが果たされるのは、何十年か経ち藤子・F・不二雄大全集が刊行されてからとなる。

他にも「小学三年生」では、パーマンの正体がバレたときの罰が「死」という衝撃的な設定であることや、マスクを被った時の力が6584倍と細かい倍率になっていること、コピーロボットの名称がソックリロボットとなっていること、スーパーマンの円盤がかなり小さいことなど、すぐに変更される設定がいくつも見て取れる。

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なお、「小学四年生」ではコピーロボットの名称になっていたり、スーパーマンとの出会いが回想で描かれていたりすることから、こちらの方が後に描かれたものと推察される。

さて、ここまでの前情報を押さえた上でサンデー版の初回について、詳細に見ていこう。

冒頭は正月発売号ということを踏まえて、こたつに潜り込んで年賀状を妹から受け取るシーンから始まる。妹の名はガン子。「頑固」ということだろうが、ダジャレっぽい名前を付けてしまったものだ。

パーマンの前作となる「オバケのQ太郎」では、お兄さんとの二人兄弟であったが、本作では妹との兄妹という設定にしている。正体を見られたらダメという制約の中で、妹を登場させることで、その後いくつかのドラマが生まれることになる。

届いた年賀状を読むミツ夫だったが、クジの付いてない年賀状を見つけて「こんなのはよそへどけとこう」と嫌な顔をする。なぜそんな描写が突然入るかと言えば、このクジ付き年賀状を巡ってこの後物語が進んでいくからだ。

ちなみに、くじ付き年賀状は1950年から始まって、本連載時の66年では一等賞がポータブルテレビであった。今よりこのクジ熱は高かったものと思われ、それを踏まえたお話となっている。年賀状の歴史については、下記のサイトの説明が分かりやすい。

次に沢田みち子、みっちゃんからの年賀状を見つけて慌てるミツ夫。まだ出してなかったことに気が付いたのだ。家族にクジ付き年賀状が余っていないか聞くのだが、ここでもクジ付きに拘っている点に注目しておきたい。

早速、返事を投函しに出かけるミツ夫。と、そこにカバ夫サブに会う。この二人の名前も相当にあだ名っぽい。カバ夫はジャイアン的なガキ大将ではあるが、サブは必ずしもスネ夫的というわけではない。のちに登場していくる三重晴(みえはる)が、どちらかと言えばスネ夫の雰囲気を出している。

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カバ夫は「俺に年賀状を出したか」とミツ夫に聞く。ミツ夫は「君がくれないのに何で出さなきゃダメなのか」と問うと、「細かいこと言うなって、俺たちクジを集めてんだ」と、彼らもクジ付き年賀状が欲しくてたまらないのである。

みっちゃんに出すこれしかないと答えると、「俺は宛名なんかにはこだわらないぜ」と、あくまでクジ狙い。そして拳で脅されると、ミツ夫はやるよ、と年賀状を手放してしまう。

そこに当のみっちゃんが登場。年賀状の顛末を話すと、「カバ夫さんにはかなわないんだから、仕方がないわよ」と好きな子には言われたくない同情セリフを聞かされ、「取り返してくる」といきり立つ。

そして引き返して、カバ夫に対して年賀状を返せと喧嘩を吹っ掛けるが、あえなく返り討ちにされてしまう。「やっぱりね…」と呟くミツ夫だが、この当たりの行動力は、後ののび太とは大きく異なる印象を受ける。

服が汚れたので家に帰ってこっそり着替えようとすると、ガン子に見られてママに言いつけられてしまう。ガン子の言いつけ癖には、ミツ夫は相当苦労させられることになる。

正月早々嫌なことの続くミツ夫は、空き地の土管の上で大あくび。そこに同じ様にあくびをして草むらから起き上がるマスクを被った謎の男。男は、地球に着いたとたんグッスリ寝て、起きたらすぐに帰る時間になってしまったと慌てている。

ミツ夫が声を掛けると、男は「最初の一人は君で間に合わせとこう」と一方的に話始めて、パーマンセットをやるからパーマンになれと言う。さっぱり理解できないミツ夫に対し、男は「いちいち説明しないとわからんのか」とイラつく。

後に追加された設定として、パーマンの資格があるかどうかは、素質を見極めることのできるチェッカーで調べなければならないというのがあるのだが、寝て起きたばかりのスーパーマンにその暇があったとは思えない。

「一体おじさん何者?」と尋ねるミツ夫に対し、「僕は遠い星から来た、君たちの言葉でいえば、スーパーマンだ」と男は答える。

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ここでのポイントは、彼が地球人が言うところのスーパーマンだと答えている点だろう。あくまでDCコミックのスーパーマンのことではなく、一般名詞として、一つの例としてのスーパーマンという使い方をしているように思える。

スーパーマンという表記は最初の掲載稿から、80年代の再連載時に「バードマン」へと変更がされている。一説にはスーパーマンの商標登録に引っかかったため、とされているが、固有名詞ではなく一般名詞として使っていることから、それほど問題があったようには思えない。大全集では、「スーパーマン」と表記が戻っている。

ところで、なぜバードマンと言う名前になったのか?
昔どこかで読んだのだが、スーパーマン=超人→鳥人→バードマン、となったのではないかと推測している人がいた。僕もこの意見に賛成したい。

ちなみに、アメリカのアカデミー作品賞を受賞した「バードマン」という映画がある。昔バットマンを演じて大味なヒーローの役柄の印象が強くなってしまった俳優が、一皮むけるために演劇の世界で再出発を遂げようとする悲哀たっぷりの作品。実際に初代バットマンを演じたマイケル・キートンが、自身を彷彿とさせる役柄を演じている。

この映画での「バードマン」は、鳥の羽を大きく羽ばたかせるビジュアルからもわかるように、文字通り鳥男であった。普通バードマンと言えばこのイメージだろう。やはり、「パーマン」でのバードマンには無理がある。

と、ここまでで、大全集版全18ページの内7ページまでの解説が終了。既に3000字の長文となってしまったので、また明日に続きます。

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