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羽生九段初勝利! 注目の王将戦第二局を語らせてくれ~

将棋ファンで良かった! そう、心から思える一日だった。


令和最強の若き天才藤井聡太王将(五冠)に、平成最強のレジェンド羽生善治九段が挑む王将戦七番勝負

第一局は、後手番を引いた羽生九段が、一手損角換わりというプロ間では珍しい戦型を採用して、攻勢をかけたものの、藤井王将の歩が桂馬に変わるという驚きの「藤井マジック」を指して、一気に均衡を破り、そのまま勝利を収めた。

年間の名局賞に選ばれそうな大熱戦であった。

羽生さんの異色の作戦採用は、結果的には負けとなってしまったが、今回の大一番にかける強い意欲と、深い研究を感じさせる一局であった。


注目の第二局は、1月21日・22日に大阪・高槻にて行われた。

本局は羽生九段が先手番と決まっている。将棋は先手番が若干の優位を持つとされるだけに、この一局は羽生さんにとって、非常に大切な戦いとなる。なぜなら、ここで負ければ2連敗となり、次局は藤井さんの先手番となるからだ。

現在、藤井五冠は先手番で21連勝中という無双状態で、基本的に勝つのは難しい。そうなると羽生九段の3連敗の可能性も高まり、先に4勝した方が勝つ王将戦において、タイトル奪取はかなり厳しくなってしまう。

そういう意味で、本局は今後の展開を見据えた時に、最重要の対局だと言えるのである。


さて、まずは注目の戦型。羽生さんは一局目に一手損角換わりを採用したことからわかるように、何でも幅広く指しこなせるのが強みである。よって、どんな戦型を選択するかは、予想が付きずらいのだ。

今回、先手番で採用した戦型は「相掛かり」であった。相掛かりは、将棋を覚えたばかりの頃に指すことも多い、アマチュアにとってもお馴染みの戦型である。

しかし、相掛かりは、序盤から作戦の分岐が多く、すぐに力戦将棋になってしまうのが特徴。まだプロ間でも定跡の整備が徹底されておらず、ここ1~2年大流行している形である。

羽生さんは、それほど定跡化されていない戦いを志向したということであろう。


最初は前例のある形で進められるが、38手目で後手番・藤井五冠から手を変える。

前例を踏襲している間は、もの凄いスピードで手が進んでいくが、一度前例から離れると、たいていの場合手が止まることが多い。新しい局面となると、前例(=記憶)の勝負から、その後の構想や読みが問われていくので、時間をより使うことになるからである。

ところが、前例を離れても、羽生さんの手は止まらない。39手目はノータイムで一筋の端歩を突き捨てている。つまり、藤井さんの指した「新手」は、事前に研究済みだったということだ。

それに対して、藤井さんも2分の考慮(ほぼノータイム)で同歩と応じている。こちらも研究してますよ、というわけである。

その後数手は二人とも時間をそれほど使わずに指していたものの、藤井さんの手番となる44手目で、初めて1時間22分という長考となる。これはすなわち、藤井さんの研究から外れた未知なる局面に入ったことを意味する。


ところが、藤井さんの長考後の羽生九段は、それほど時間を使わずに次の手を指す。これは羽生さんにとって、この局面はまだまだ研究の範囲内であることを指し示す。この後も、羽生九段の手は止まらず、いつの間にか羽生さんが押していく形となっていく。

そして、ここで驚きの一着が飛び出す。59手目の「82金」である。何がどう凄いかの詳細は割愛するが、事前に準備していないと絶対に指せないとされる一手だったのである。

対局場近隣の大盤解説会では、この手が指された時に大きなどよめきが起こったと言う。


昨今の将棋解説は、AIが示した形勢判断や次の最善手を元に、解説が行われることが多い。しかしコンピューターが示す次の一手は、とても常人では思いつかない異色の筋であることが良くある。コンピューター的にはベストだとしても、普通の人間には指せない手というものがあるのだ。

今回の羽生九段の「82金」は、現地解説会でのAIが示した最善候補手であったという。その際、解説の稲葉八段がこの手は人間には指せないでしょうと語っていた矢先に、ノータイムで打ち込んだのである。

どよめきの理由は、そういうことであった。


この手を見た藤井王将は、再び大長考に沈み、56分後に次の手を指す。そしてこの手によって、形勢を損ねてしまう。羽生さんの深い研究がズバリ急所を突いた形となったのだ。

ここで一日目が終わるが、藤井さんは持ち時間で大きく羽生さんに差を付けられた。藤井五冠が負ける将棋は、持ち時間を対局者より先に無くなってしまう場合であることが多く、一日目については、完全に羽生さんの作戦が当たったのである。


さて二日目。前日と打って変わって、今度は藤井さんの猛反撃に、羽生さんが巧みに受けていくという展開となる。AIの形勢判断では、羽生さんが若干のリードを保ったまま、終盤の入り口に差し掛かる。


AIの評価値が登場したことで、見る将棋(通称:見る将)が変わったとされる。一般的に、プロの指す手はそれにどんな意味があるのか一目わからないことが多いとされるが、AI将棋ではそこが明快となる。

次の候補手をAIが指し示し、①の手を指すと互角、②の手を指すと逆転、などと分かり易く表示をしてくれるようになったからだ。

そうなると、棋士は次の一手を指した瞬間に、その手が疑問手だったとか、悪手だったとかが、見ている私たちでもすぐにわかるようになる。良く将棋のルールに精通していなくても、ゲーム感覚で、将棋を見て楽しめることになったのである。


さて、羽生・藤井戦の終盤は、藤井王将の最後の猛攻が続くが、その際、羽生九段の次なる一手の正解手がたった一つしかない状況が何度も現れる。正解以外の手を指すと、たちまち大逆転してしまうのだ。

ラストのクライマックス。一手逆転の危険を孕んだ、藤井五冠からの10連続王手が羽生九段を襲う。が、全てを読み切っていた羽生さんが全て「正解」の手を指して王手ラッシュをかわし、ついに藤井五冠を投了に追い込んだのである。


名局賞、再び! 第一局目を超える興奮のるつぼと化した棋譜が、またしても登場してしまったのだ。昨年の絶不調だった羽生さんとは思えない充実ぶり。そして、最後の最後まで技を繰り出す藤井将棋の恐ろしさ。

新旧二大スターのタイトル戦激突が実現しただけもで嬉しいのに、その対局もまた歴史に残る名勝負となっており、興奮冷めやらぬ気持ちである。本当に将棋ファンで良かった。(二度目)


これで1勝1敗となり、ここから先に三勝した方が勝ちとなる五番勝負へと姿を変える。

できる限り長く二人の対局を見ていたい。その意味で、最終的にどちらに軍配が上がろうとも、七局目まで戦いが続くことを、心より祈りたいと思う。



将棋の話もチラホラ・・。


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