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管理監督者のポイント・要件表ver2 出向に関する応用編付き

こんにちは。

IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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※このnoteは、2019年6月18日に公開したnote記事を加筆・修正したものです。
多くの皆様にご覧いただいている記事だからこそ、新たなバージョンを作成しようというやる気が湧きました。読者の皆様、いつもご愛読ありがとうございます。

「管理監督者について分かりやすく書かれた記事がないかなーと探していたら、シグナルさんのnoteがヒットしました!」等と多くの皆様にご覧いただいている記事だからこそ、新たなバージョンを作成しようというやる気が湧きました。読者の皆様、いつもご愛読ありがとうございます。
今回は応用編を加筆しましたので、ぜひ最後までお読みください。


「管理監督者のポイント」の記事を公開後も、管理監督者に関する質問は弊所にかなり寄せられています。
最近、特に増えているのが労務監査(労務デューデリジェンス)に関して、自社の従業員が管理監督者に該当するかどうかご心配されての質問です。

それらの質問を振り返りますと、やはり「管理監督者」に関しては誤解が相変わらず多いというのが正直な印象です。

改めて「管理監督者」(労働基準法第41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」)について、自作の表とともにわかりやすく解説していきたいと思います。

1.管理監督者とは?


次の表をご覧ください。




まずは、Aの部分です。

「管理監督者=管理職」という認識の方、あるいは「管理監督者=課長以上」という認識の方などが多くいらっしゃいますが、それは誤りで、管理監督者は管理職の中でもごく限られた存在なのです。

人事労務分野に携わっている人ならばご存知でしょうが、管理監督者であるか否かをめぐって争われた代表的な裁判例が日本マクドナルド事件判決(東京地判平成20年1月28日)です。

事件の概要としては、大手ハンバーガーチェーン店で管理監督者の扱いを受けていた店長が、自分は割増賃金の適用除外となる管理監督者には該当しないとして、過去2年分の割増賃金の支払いを求めたというものでした。
2008(平成20)年に東京地裁が、この店長を「管理監督者に該当しない」という判決を下し、大きな話題となりました。
店長といえば各店舗のトップですから、管理監督者として扱って問題なさそうな気もしますが、なぜこの店長は大企業を相手に裁判を起こす気になったのでしょうか。

その動機となるのがBの部分です。
このBの部分は、分かりやすく表になったものが検索しても出てこなかったので、史上初公開(!?)かもしれません。

表にある通り、管理監督者は、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規制が適用除外されています(労働基準法第41条第2号)。
そのため、管理監督者がどんなに時間外や休日に働いても、割増賃金は支給する必要性がありません。
「おおおおお、それなら管理監督者には勤怠管理システムの打刻をしてもらわなくてもいいな」と思ったあなた!
管理監督者が健康を害するほど長時間労働をしてもいいというお考えですか?!「深夜労働もガンガンやらせよう」ともお考えですか?!
管理監督者であっても、深夜労働の割増賃金は支給しないといけません。


そして、2019年4月に労働安全衛生法が改正され、管理監督者であっても会社は労働時間の把握義務が課され(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)、健康管理をしなくてはいけないことになりました。

これは当然の話で、管理監督者であっても人間ですから長時間働けば健康を害します。
健康管理のためには、労働時間を把握することが最初のステップですので、管理監督者であっても、勤怠管理システムやタイムカードに打刻してもらうなどしてもらわないといけません。

健康管理と労働時間の関係については「【働き方改革】産業医・産業保健機能の強化とは?」のnoteに書いたので、まだ読んでいない方はぜひお読みください。


「それでは、どのような人が管理監督者に該当するの?」と思った方にお答えするのが、Cの部分です。
Cの部分の3つの要件を「全て」満たすことが必要ですのでご注意を!

管理監督者について、行政解釈では「部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」(昭和22.9.13発基17号、昭和63.3.14基発150号)とされていますが、日本マクドナルド事件などの裁判例ではCの部分の3つの要件を考慮に入れた判断がなされています。

3つの要件それぞれをくわしく見てみましょう。
①の労務管理上の使用者との一体性というのは、経営上の重要事項に関する権限や、部下の人事権(採用や配置転換の権限)を有していることです。
②の労働時間管理の対象外というのは、管理監督者自身が出退勤時刻に関して広い裁量権を持って仕事を進められるということです。
③の地位にふさわしい待遇というのは、たとえば、時間外賃労働賃金に相当する管理職手当が支給されているかなどの点から判断されるということです。

管理監督者の扱いを受けている方が、仮に①と②の要件を満たしていたとしても、月給20万円のみと設定したのでは地位にふさわしい待遇を受けていないため、管理監督者に求められる要件を「全て」満たしたとはいえません。

前述の大手ハンバーガーチェーン事件の場合、①については権限が店舗内(アルバイトの人事管理程度)に限られていること、②については月100時間超の残業や63日連続出勤など、出退勤に裁量があるとは全然いえない状態にあったこと、③については年収が店長になる前より下がっていたことなどから、管理監督者性が否定されています(その後、控訴審で店長に1,000万円以上の金額が支払われることを条件に和解が成立しました)。

この事件をきっかけに、「名ばかり管理職」という言葉が広く普及しましたが、判決から15年以上経過しても、管理監督者に求められる要件に関しての理解度はまだまだ低いと言わざるを得ないのが残念です。
「名ばかり管理職」は、正確には「名ばかり管理監督者」と呼ぶべきなのですが、管理監督者であることの要件を満たさない名ばかり管理監督者のケースが現在でもかなり見受けられます。

管理監督者が注目される理由は、「残業代(時間外労働の割増賃金)を支払わなくても良い存在」だからというのが正直なところでしょう。ですが、管理監督者という地位は残業代削減のための「魔法の杖」ではありません。


管理監督者に対しては、「割増賃金に相当する」部分を含む地位にふさわしい報酬を支払っていることが大前提となります。
そのため、残業代削減のために管理監督者にするという考え方はそもそも成り立たないのです。
また、管理職であれば管理監督者となるという考えも、当然誤りということになります。
管理職として扱うか否かは企業が自由に判断できますが、管理監督者として扱うことができるか否かは労働基準法の定めにより決まるものです。
実際上はかなり限られた上級の管理職の方だけが管理監督者に該当するとお考えください。

管理監督者としての扱いをされている従業員がいらっしゃる企業は、Cの部分の3要件に関する事実の再確認を、これから管理監督者を置こうとされている企業はこのnoteを参考に要件を満たす人を管理監督者としてください。



2.応用編「出向と管理監督者」

応用編として、出向と管理監督者の問題について少し考えてみましょう。

ある企業では、在籍出向の形で従業員を受け入れることになりました。
出向元の大企業では管理監督者扱いを受けていた方ですが、出向先のこの企業では管理監督者扱いはせず、一般従業員として扱います。

この出向従業員の方の給与(賃金)については、出向元の大企業から支払われることになっていて、もともと年収にすると1,000万円を超える待遇でした。

この方は出向元では管理監督者扱いをされていましたので、残業代(時間外・休日労働に関する割増賃金)の支給は受けていなかったのですが、出向先のこの企業で時間外・休日労働を行った場合、残業代が支払われることになるのでしょうか?

在籍出向は、出向元と出向先の契約により、出向従業員が出向元との労働契約関係を維持しつつ、出向先とも労働契約を締結する形態です。
この際に出向従業員の給与(賃金)を誰が負担するかについては法律の定めがないため、これも出向元と出向先の契約によることになります。

今回のケースでは出向元が給与を支払うことになっているわけですが、出向労働者は出向先では一般従業員としての扱いを受けていますので、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規制の適用対象となります。
そのため、時間外・休日労働が行われれば、その分の残業代(割増手当)を支払わなければならないということになります。

出向元と出向先の間で締結される出向契約において、出向労働者の待遇について残業代の扱いも含めて明確に定めておき、出向労働者に事前に説明しておかないと、思わぬトラブルやコンプライアンス違反が生じてしまいかねないので、十分お気を付けください。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。

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