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2021年以降 注目の法改正等(2020年12月22日現在)


<はじめに>

こんにちは。社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆(@sharoushisignal)です。
※このnoteは、今年公開したnote記事を最新の情報を踏まえて加筆・修正したものです。

先週は2020年の振り返りをしましたが、今回は来年に向けてのことをお伝えします。

2021年以降の法改正の内容を表とともにお伝えします。来年4月1日までの間に施行されるものが多いので、人事労務担当者の方は、ぜひ年内に内容をご確認の上、対応スケジュールを立ててくださいね。

note.本文用 注目の法改正 再修正  (1)


<2021.1.1 子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得義務化>

時間単位取得義務化を受けて、すでに育児介護休業規程の改定等、対応はお済みですか。2021年1月1日からの施行ですので、2020年中に対応を終わらせる必要があります。

子の看護休暇・介護休暇が1時間単位で利用できるようになることは、子育てや介護に関わる働く方々にとっては非常に有意義な改正です。
ワークライフバランスの向上につながることから、離職防止の面などで企業にもメリットがあるでしょう。
その反面、勤怠管理がどうしても煩雑になってしまう面がありますので、その点を踏まえて対応しましょう。


<2021.3.1 障害者の法定雇用率変更2.2%→2.3%>

障害者雇用促進法では、全ての企業に対して障害者の雇用を義務付けています。その率(法定雇用率)を今までは2.2%と決めていましたが、2021年3月1日からは2.3%に引き上げられることになりました。
法定雇用率を達成できない場合は、100人以上の企業ですと障害者雇用納付金が徴収されることになります。


障害者雇用納付金とは、障害者雇用率が、未達成の100人以上の企業に課される納付金です。金額は、未達成者1人につき、月額で、原則50,000円です。この納付金は障害者雇用の促進のための調整金や職場環境整備に使われています。


<2021.4.1 70歳までの就業機会確保努力義務化>

「ついに来ました」という法改正です。「全世代型社会保障改革」の一環で、その狙いは書かなくてもお分かりだと思いますが、年金・医療といった社会保障制度の持続可能性確保です。社会保障関係費の増大を受けて、多くの国民にできるだけ長く就労してもらいたい、年金の受給開始年齢を遅らせたいというのがメインの理由となります。
今回は企業の経営者やHR担当者の方々に「努力義務である期間は短いかもしれませんよ!」ということをお伝えしておきます。


65歳までの雇用確保措置が努力義務化されたのはいつのことだったか覚えていらっしゃいますか?
「2000年」のことだったんですね。その努力義務が対象者限定可能とはいえ義務化されたのは「2006年」、さらに65歳までの継続雇用を希望者全員について企業に義務化したのが、「2013年」です。かなり速いペースで進んでいますよね。


この流れを踏まえれば、「70歳までの継続雇用」が希望者全員について義務化される日が来ることを念頭において、各企業は中長期的なタイムテーブルを作り始めた方が良いといえます。

もちろん、65歳以上は「高齢者」とされているわけで、加齢に伴う健康状態の個人差が大きく生じ始めることなどを踏まえた、65歳までの雇用とは違った内容の義務になるとは思いますが、年金財政の厳しさを考えれば、企業にもかなりのレベルの対応が求められることは避けられないでしょう。将来的には「高齢者」の定義自体が「70歳以上」に見直されるかもしれません。「人生100年時代」がかなり現実味を増してきていますので、その可能性はかなりあると思われます。

65歳以上の方に戦力として活き活きと働いてもらうために、企業は健康管理・安全管理への配慮に加えて、リカレント(学び直し)などの制度についても用意する必要があるといえます。


<2021.4.1 中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法、労働契約法、労働者派遣法の各改正法の施行(同一労働同一賃金)>

この点に関しては前回の「法改正労働法 2020年振り返り」記事で詳しく触れましたので、そちらの記事をぜひお読みください。

来年は中小企業にとって非常に重要な1年になります。
同一労働同一賃金に対して、事前に完璧な対応というのは正直なところ難しいところがあります。来年4月を迎える前に、「できる限りの」対応をした上で、4月以降も正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に存在する待遇格差を随時見直していくというのが、現実的かつ誠実な対応のあり方だと思います。




<2021.4.1 中途採用比率公表の義務化 【大企業(労働者301人以上)】>



労働施策総合推進法の改正により、2021年4月1日から労働者数301人以上の大企業について、「中途採用比率」を公表することが義務付けられます。
なぜ大企業向けの義務付けなのかというと、大企業になるほど中途採用の比率が下がる傾向があるからです。最近は変わりつつあるとはいえ、大企業はいわゆる「日本型雇用システム」の特徴である「新卒一括採用」を例年行っているため、その分だけ中途採用者は少ないという事情がその背景にあります。


今回の改正の背景には、いわゆる「就職氷河期世代」対策や高齢者雇用の確保という狙いがあります。この改正は「全世代型社会保障改革」の一環として行われます。就職氷河期世代の方々や、高齢者の方々にできるだけ就業してもらいたい。そのために大企業に対して重い腰を上げて、中途採用に積極的に取り組んでもらうためのきっかけにしたい、というわけです。


それに加えて、比率が公表されることで、「あの会社は中途採用に積極的なのだな、だったら応募してみるか」というように、経験者の転職を活性化させることも狙いの一つです。

ここまでが2021年に対応すべき法改正です。ここからの内容は2022年以降の法改正となります。


<2022.1.1 複数の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度(当面は65歳以上を対象)>


雇用保険は、「労働保険・社会保険の加入表」でもお伝えしましたが、加入対象となるための要件を理解することが非常に重要です。

雇用保険の加入対象となるのは、現在は「所定労働時間が週20時間以上の労働者」です。この「週20時間以上」は、あくまで1つの会社単位で判断します。


ところが、副業をする人の増加などにより「1つの会社では週15時間働き、もう1つの会社では週5時間働いていて、合計週20時間以上」というような仕事の掛け持ち的働き方をする人も増えていますが、現在の法律では雇用保険に加入することができません。


「雇用されていること」も「週20時間以上労働していること」も要件を満たしているのに、雇用保険に入れないという、ある意味で矛盾しているともいえる上に時代の流れにそぐわない部分が改正され、2022年1月1日からは所定労働時間を合算して判断し、合算した所定労働時間が週20時間以上になった場合は雇用保険に加入できるようになります。
ただし、当面は65歳以上の方が対象ということにお気をつけください。将来的にはそれ以下の年齢の方にも間口が広がる予定です。



<2022.4.1 パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務化(中小企業の義務化)>


2020年3月16日付の記事(「大企業も中小企業も急ぐべき!パワハラ防止法対応」)で詳しく説明しましたが、パワハラ防止措置に関しては施行日が2020年6月1日からということで、大企業にとってはすでに施行されています。中小企業は努力措置となっており、2022年4月1日から義務化されます。

ただ、悠長に構えているほど時間はそれほど長くありませんし、パワハラ防止に対する社会の意識が高まる一方なので、2021年中にパワハラ防止規程の整備などに着手されることを強くおすすめします。


パワハラ防止措置について、現段階で確実に準備を行わなければならないことはパワハラに関する相談体制の整備(窓口の設置など)と、相談した労働者に不利益が生じないようにすることです。


パワハラにも様々な類型がありますが、職場の「上下関係」に基づくものがやはり多いと思われますので、トラブルの相手となった上長を介さずに相談できる措置をどう講じるかというのも1つのポイントになるでしょう。
相談体制の整備という点では、パワハラ防止研修を開催することも非常に効果的です。相談窓口をただ定めるだけではなく、研修内で相談体制について説明しておくことが、防止と発生時対応の両面でしっかり対応していたというエビデンスになるからです。



<2022.4.1 一般事業主行動計画の策定・届出及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務化(常時労働者101人以上)>


「一般事業主行動計画」というのは、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、「女性活躍推進法」といいます)に基づいて、女性労働者に対する活躍の推進に関する取り組みを実施するように努めるようにされているものです。
現在は常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主が対象ですが、2022年4月1日からは101人以上の事業主にも一般事業主行動計画の策定・届出と女性活躍に関する情報公表が義務化されます。



<2022.10.1 社会保険の適用範囲拡大(101人以上)>


社会保険(健康保険と厚生年金保険)は、所定労働時間の3/4以上(一般的には週30時間以上)の労働者が加入することになっています。
加えて、政府は医療保険や年金の財源確保のために、社会保険に加入している被保険者数が501人以上の会社においては、2016年10月1日から適用範囲を拡大させました。


要件としては、所定労働時間が週20時間以上、月額賃金が88,000円以上の人が対象になりました(その他の要件としては、勤務期間2か月を超える見込みがあり、学生ではないというものです)。


政府は、さらに医療保険と年金の財源確保をするために、被保険者数501人以上の会社となっている要件を、2022年10月から101人以上、2024年10月から51人以上としました。



<2023.4.1 時間外労働時間60H超の割増賃金に関する猶予措置廃止【中小企業】>


皆さんはすでにご存じでしょうが、そもそも時間外労働に関する割増賃金の割増率は25%以上・休日労働の割増率は35%以上・深夜労働の割増率は25%以上と定められています。その「時間外労働に関する割増賃金の割増率25%以上」部分に対して、長時間労働抑制のために月60時間を超えた時間外労働においては50%以上の割増率に法改正がなされました(引き上げ分の25%以上部分に関しては、割増賃金でなくそれに相当する代替休暇を与えることも可能)。

大企業においてはすでに施行されており、中小企業は今も猶予されていますが、2023年4月1日から施行されることになります。



<2024.4.1 建設業・運送業の時間外労働に上限規制適用>


「働き方改革」による、時間外労働の上限規制は、建設業や自動車の運転の業務等には5年間猶予(労働基準法附則第139条以下)されていますが、2024年4月1日からはその猶予措置がなくなりますので、上限規制が適用されることになります。



<2024.10.1 社会保険の適用範囲拡大(51人以上)>


先ほど説明した内容と重複するため、そちらをご覧ください。



<2025.4.1 高年齢雇用継続給付が段階的に縮小>


政府は2000年代に入ってずっと、65歳までの雇用確保に取り組んできました。雇用の確保のためには、企業の対応が必須となりますが、企業の経営面への配慮も欠かせません。

そこで、高年齢継続雇用給付金の制度を設けて、60歳到達時点で賃金が低下した場合に、一定の基準を満した60歳以上65歳未満高年齢労働者に給付金を支給するという形で企業を側面支援してきたわけです。

時は流れて、「70歳までの雇用確保努力義務化」が現実的なものとなりました。それは同時に、「65歳まで働いて当たり前」「65歳まで雇って当たり前」の社会が到来したということを意味します。
そうなると、高年齢継続雇用給付金という「特別の配慮」はもはや不要ということになります。いきなり廃止すると影響が大きいため、2025年度から現在の半分程度の水準とし、その後段階的に縮小していくのが政府の方針です。

この改正も、やはり中長期的なタイムテーブルが必要なものですね。
将来、高年齢継続雇用給付金がリニューアルして登場するのではないでしょうか。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。皆さま良いお年を。


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