【ショート小説】ペンは口ほどにモノを言う
ペン回しは簡単な回し方しか知らない。
隣に座る後輩の湊君は、ペン回しの達人かと言いたくなるほど、右手の指を駆使してペンを回転させている。
チラリとこちらを見て私の視線に気づくと「先輩、これできます? 」なんて言って、くるくるっと中指の周りでペンを数回転させた。
「すごいね。でも湊君、ペン回しをする暇があったら、一ページでも企画書を仕上げてね。ほらそこの付箋使って」
「これね、ガンマンっていう技なんですよ。ペン回しの競技種目らしいです。格好いいですよね」
「ねぇ、私の話聞いてた? 」
「はい、聞いてますよ」と言いながら、尚も得意気にペンを回し続けている。すかさず彼の右手からそれを取り上げてやった。ついでに自分も何度か回してみるがうまくいかない。
「私ね、こういうの苦手なのよ。はい、おしまい。ペンは書くための大切なツール」
ね、と湊君にペンを返した。
「でも、書くためだけに使われていたツールが、いつしか競技用の道具としても使われるようになったんですよ。これってすごいと思いませんか? 」
「まぁ、そうかな」
「一つのモノを多角的に見れば、そのモノの持つ存在価値っていくらでも増やせると思うんですよね」
ほら、と言ってまた”ガンマン”を見せつけてくる。彼の様子から一向にペン回しを止める気はないらしい。
「湊君、じゃぁ、他には? 」
そう言って、もう一度彼からペンを取り上げた。
えっ、と一驚を見せた湊君にもう少し詰め寄る。
「私は湊君からしたら営業部の先輩だよね。他には? 」
どうせ答えられるまい、と姿勢を元に戻し、デスクにある珈琲を一口啜った。
横目で彼を見れば、人差し指を顳顬に当てて目を閉じている。そんなに大袈裟に考えることだろうか。彼の姿に一笑すると、はっと思い出したかのように、今度は私からペンを取り上げ、何かに走らせた。そして「はい」と私のデスクにその「何か」を貼り付けてきた。
『厳しくて怖いけど、世界で一番優しい先輩』
私がしばらく微動だにしないでいると「外回りに行ってきます」と彼が席を立った。
——なんだ、ペンの使い方分かってんじゃん。
—了—
あとがき;
今回、登場した「モノ」は”ペン”でございました。
実際にペン回しをしていたら、
ペン回しが気になり、
少し調べたら、競技にまでなっていることを
知りました。
これを「ペンの存在価値が増えた」
と捉えたとして、この存在価値の気づき方を、
対ヒトに派生できないだろうか、
と物思いに耽っていたら、生まれました 笑
因みに「先輩=年上」とは限りません。
さて、主人公の最後のコトバ、
どう読み解きましょうか😌
しゃろん;
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