迷い込んだ猫のお話⑧

薄暗い空気の中で僅かに出来たブロック塀の隙間に身を潜めた猫は、自分を狙う敵の視線を僅かに逸らす事に成功した。これまで他の動物たちと群れをなす事を嫌い、独りになる事を選び生きてきた猫はこれまでも数々の修羅場を経験してきた。今この瞬間は、そんな過去の経験など微塵も役に立たない程遥かに過酷な状況だと思えた。しかし辛うじて首の皮一枚繋がって逃れられているとするならば、その経験は皮肉にも孤独に生きていた事による副産物であると認めざるを得ない。

そして、あの三毛猫だ。

今この瞬間を見つめている。助け舟を出す訳でもない。そもそも今日は他の現場に行っている筈であったが。それが今ここで捕まえられそうになっている瞬間に立ち会っている訳だから、恐らくは今日は最初からつけていたのだろう。いや、今日だけではない。初めて市場に行った日も三毛猫は同行していなかった。集落と市場を往復する軽トラに飛び乗る事が出来れば容易に市場へ向かう事が出来る。間違いなく自分を初日からつけてきた筈だ。

では、何のために?

あの三毛猫は何のメリットがある?何を考えている?

....あ!!

またもや猫は、全身が身震いする程の衝撃に襲われた。断じて認めたくないこの推察は、非情にも事実という他考える事が出来ない。

あの、河川敷の一本道で三色の毛並と向かい合った瞬間。全てそこから始まっていたのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?