迷い込んだ猫のお話⑦

薄暗い路地裏での集会を終えそれぞれが各自の潜伏先へと散っていく中、猫は三毛猫と横並びで話し込んでいた。

「今からする僕の話を、明日初めて現地に行く君は真剣に聞いて欲しいんだ」

突然に神妙な面持ちで三毛猫から話かけられた猫は、真っ直ぐに三毛猫の目を見て聞き込んだ。

「単刀直入に言うと、市場への潜伏は死と隣合わせなんだ。」「僕はあの日、自分の存在が見つかった時、奇跡て何を逃れて帰ってくる事が出来た。けど彼らは間違いなく僕とその仲間を殺そうとしていたんだ。」「これは昔からの言い伝えだけど、市場の人間は自分らの商売を邪魔する猫を見つけ次第、銃殺してしまう様なんだ。勿論僕も最初はそんな言い伝えなど間に受けていなかった。だけどあの日、逃げ惑う中で黒光りする銃口が自分に向けられているのがはっきり分かったんだ。」

神妙な面持ちで三毛猫の話を聞く猫の心中は複雑だった。いささか府に落ちない点がいくつかあった。まず一つは三毛猫に関して、何故それ程のリスクがあると分かってて市場へ向かったのか。確かに言い伝えを信じていなかったとは言え、死の危険がある場所に飛び込む勇気がこの三毛猫にはあるのか甚だ疑問だった。更にもう一つ。それ程の危険があると分かっているなら、普通はもう市場へ向かう事を止めるべきではないのか。話をされたタイミングも不自然な気がしてならない。何故初めて市場に行く日に、いやその前から話をしておかなかったのか。万が一三毛猫の言う通り自分の存在が相手にばれ、命を狙われていたらどうするつもりだったのか。

猫の脳内では止め処なく疑いの念で溢れた。ただ猫は、この期に及んでこれ以上考えても何も意味がないと開き直り、自らの心を切り替えた。

これがあの日僕が記憶している事だ。黒光する銃口を視界に捉えながらも猫は冷静に逃げ道を探っていた。こんな所で死んでたまるものか。

正面のブロック塀の最端を見ると、壁との間にわずかな隙間がある事が確認出来る。薄暗い市場の中では人間にとって視界が悪く死角になり易い。仮に発砲されても命中率は著しく下がる筈だ。というより、生きるか死ぬかの状況でこれ以上考えている時間はない。

猫は辺りを支配する空気の中でわずかな"間"をつき走った。その刹那、更に自分を捉えている黒い球体が視界に飛び込んで来た。その瞳に見覚えがあると分かった瞬間、猫は全身身震いする程の衝撃を受けた。

三毛猫がいる。

何故

何故ここにいる...?

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