迷い込んだ猫のお話⑥

全てが順調だった。それは今日の任務を完璧に遂行出来ているからだけでなく、モグラと別れてから三毛猫達と出会い、黒猫のグループに入り今の自分の地位を築く事が出来ている事実に対して言えることである。居場所が無く彷徨っていた自分が誰かに必要とされ、ましてや今は集落の中心的存在となっている。何より充足感を感じているのは、親に捨てられてから誰にも相手にされていなかった自分が周囲から認められている事だった。更に自分自身の生活も遥かに豊かになった訳だから、猫はかつての仲間を切り、三毛猫の誘いに乗った自分は間違っていなかったと事あるごとに再認識していた。

違和感を覚えたのは今日3匹目の獲物を持ち去ろうとした時だった。ついさっきまで通っていた裏口までのルートにブロック屏が置かれていた。塀は2,3段の山積みになっており、当然塀を避けるか飛び越えるかしなければ裏口まで辿り着くことが出来ない。

猫は"単に人間が塀をどかしただけだろう"と思い、特に自分が警戒されているとは考えていなかった。実際、塀を避けて裏口まで通るには十分なスペースがあった。足早に猫が方向を変えて走り出すと、今度はまた山積みのブロック塀が立ちはだかった。しかも今度は壁際に積まれており、避けて通る為のルートを見つける事がいきなり難しくなった。この時点で猫は若干の不安を覚えるも、まだ今日は運が悪いだけだと思い込んでいた。が、次に目の前に映る景色を見た瞬間に猫は全てを悟った。

自分の存在は既に周囲に知られていたのだ。

それだけでは無い。既に猫を捕獲する為の体制は整えられ、猫は、仕掛けられた罠に物の見事に掛かっていたのだ。その事実を再認識させるかの様に、こちらに近近付いてくる鈍い足音がはっきりと猫の耳に入ってきた。

猫は、震える脚を止めながらも後ろを振り返る事が出来ずにいた。それは三毛猫から伝えられていたある話を思い出し、今、目の前でその恐ろしい話が現実になろうとしている事実を受け入れられずにいたからだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?