迷い込んだ猫のお話Ⅻ

薄暗い空気の中に響き渡る2匹の動物の鳴き声。今、その鳴き声は彼らにとって、互いの生命と価値観について定義する"言葉"となっている。

「 ここまで来たら教えてくれ。まず、その鈴は一体何なのか。そしてお前はそれを誰から、どの様にそれを手に入れたのかを」

「その鈴は大切に想う人を持つ者だけが手にする事が出来る鈴なんだ。そして、その者の命を救う為に一度だけ効果を発揮するんだ。僕は元々その鈴を持っていた。そして君を待つ運命の為にこの鈴を渡したんだ。」

「大切に想う人...。じゃあ一体どうやってその鈴を?」

「母親だよ」

モグラにはかつて幼くして死別した母親がいた。猫と出会う頃には既に、彼は一人で生きていたが、猫はモグラの話から彼に母親の存在があった事は認識していた。 

「大切に想う人を救う鈴。僕の母親はこれを僕に託したんだ。しかし、僕はこの鈴を使う機会は結局最後まで無かった。でも実はこれこそが僕にとっての運命だったんだ。自分を救う為では無く、誰かの為に鈴を渡す事。母親が僕に鈴を渡した目的は僕を守る為であったかも知れないね。だけど僕に取って本当に大事な事は君を守る事だったんだ。それが僕の運命であり、その想いが鈴に伝わったからこの鈴は効果を表し、君を守ってくれたんだよ。」

猫は黙ってモグラの話を聞いていた。彼が自分に対してここまでの想いを持ち、また自分の命を救う為に動いてくれていた事が分かり胸が熱くなった。

「俺はなんて愚かだったんだ...」

ここまでの想いを持つ仲間がいた。しかしかつての自分は、その仲間の想いを断ち切り、独りになる事を選んだ。独りで生きていけると信じ切っていた。仲間、繋がり、絆など迷信であり、生きていく限り必ずしもそう言った空想は必要無いと考えていた。

結果はどうだ。

俺はあのまま死んでいた。

仲間に救われる事で命を繋ぐ事が出来たんだ。誰かの為を想い生きているモグラいた事で俺は今生きていられるんだ。

自分の為じゃないんだ。

自分の為ならいくらでも妥協出来る。簡単に諦める事が出来る。投げ出す事も出来る。勇気を出して立ち向かって行く必要も無い。

だけど独りでは生きられない。

独りで生きていく事は出来ないんだ。生命は必ず共存すべき運命にあるんだ。そしてその共存の繋がりの中で生きていく事が生命体としての理なんだ。

「...すまなかった。これまでお前の想い汲み取る事が出来ずに本当に申し訳なかった...」

猫は続けた。自身の想いを言葉にぶつけた。

「ありがとう」

モグラを黙っていたが、猫の考えを全て読み取っていたかの様に微笑み、僅かに頷いた。

「それとだ」

眼を逸らす事なく続けた。

「モグラ、お前が言う運命てやつを教えてくれないか」

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