迷い込んだ猫のお話⑨

思い返せば合点が全てに行った。

細長い一本道で目の前に現れた三毛猫。

あの時、三毛猫は目視で自身と猫の体格差が殆ど無いことを確認していた。三毛猫が考える作戦の実行にはこの確認作業は必須だった、

そして、三毛猫は自身もかつては孤独であった事、今は集落で地位を築き確かな居場所を得ている事を話し、僅かながらにも猫の気を引いた。集落では一度ケチがついている三毛猫にはそこまでしてでも"生贄"を確保しなければならない理由があったのだ。

とはいえ、かつては三毛猫も孤独であった事は紛れもない事実である。故に、三毛猫は猫の素質を素早く見抜く事が出来た。それはどんな相手に対しても物怖じせず立ち向かって行く気迫を猫の眼光から感じ取ったからであった。

そんな三毛猫も今の集落で更に上の座を狙い、黒猫の座を陥れる為には相応の成果を出す必要があった。それまで難易度の高い潜入場所への攻略も成功してきた三毛猫だが、やはりかつて命を狙われたこの市場への"因縁"は消え失せる事は無かった。

復讐のタイミングを虎視眈々と伺っていた中で独りで歩く猫出会った。彼からは自分と同じに匂いを感じ取った。三毛猫の復讐計画はその瞬間から始まった。風貌も生い立ちも似ている2匹の猫との間で、唯一違う点は冷酷差の有無では無いだろうか。三毛猫はすぐさま猫を市場へ送り込む準備を始めた。その為に、まず初めに行わなければならない事がある。

それは、自分を信頼させる事である。

猫と三毛猫は互いに似た境遇を生きてきた。だからこそ三毛猫には、猫がその時点で最も欲している物を直感的に感じ取ることが出来た。 常に自分だけが頼りになる状況下で生きてきた猫は、やがて自身が置かれた環境にも適応し、他者との距離を保つ様になっていた。

だがしかし、心の奥底では欲していたのだった。自分を認めてくれる居場所を。その想いはいつ何時も消え失せる事は無かった。独りになった事は自分の選択だ、自ら選んで独りになったと考えていた。その真理を読み解くと、実際は恐怖との戦いだったのである。自分の周りから仲間が離れて行く恐怖、仲間と別れる恐怖、自ら別れを告げる時への恐怖。独りになる事は、そんな恐怖から逃れる為の一つの手段でしか無かった。それは、生物としての本能的な衝動に駆られた結果であるのかもしれない。

三毛猫は全てを見抜いていた。かつては自らも同じことを同じ感性を持ち、同じ考えを持っていたのかもしれない。だから復讐の時を心待ちにしている飢えた一匹の三毛猫に取って、猫との出会いは運命的であった。これ以上ない利益を自分に与えてくれる存在であるという利己的とも言える考えに他意などなかった。そして、全ての計画を完遂する瞬間が今、やって来た。





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