迷い込んだ猫のお話③

22時を過ぎた。店内から客はいなくなり、店主が店じまいの準備を始めた。「一旦ここを離れよう。大丈夫、別に僕らは住み込んでいる訳じゃないし、散歩に行っていてまた明日になれば戻ってくると信じ込んでるから」

2匹は店を出て路地裏狭い道に戻って来た。「ここでタイミングを伺うんだ。店仕舞いをしてシャッターを降ろすまでの間に店主が目を話す時間がある。その隙にまた忍び込んで、今度は魚とキャットフードを咥えて裏の勝手口から飛び出すんだ。」三毛猫が続ける。「君のデビュー戦だ。さあ、早速行って貰おうか。」

年老いた店主は、売上額の清算をする為に裏の事務所へ入って行った。そしてボタンを押すと同時に銀色のシャッターがゆっくりと音を立てて降りてきた。猫は急ぎ足で店に忍び込み、店主が自分の存在に気づいていない事を確認すると、まずは冷凍庫内の魚を1匹口に咥え、更にキャットフードの袋その刃に引っ掛けた。振り返ると、三毛猫が言っていた勝手口が眼前にあった。猫は初の獲物が掛かるその刃に力を集中をさせ、素早い足取りで暗闇の道路へ飛び出していった。

路地裏から三毛猫がその様子を見守っていた。「上出来だよ。もう次からは僕がいなくても大丈夫そうだね。いやあ、大体初めは人間に警戒されて失敗に終わるか、見つかって始末されるかのパターンが多いんだけどね。1回目から成功するなんて大したもんだよ。」

最初から上手く行くとは考えていなかった。が、仮に見つかったとしても逃げ切れば良い話で、尻尾を捕まれてない限り他のターゲットに移れば問題ない事だった。成功体験と2つの獲物。三毛猫にも素質を認めて貰えた事実。集落に戻るまでの道のりはこれまでに無い高揚感に包まれていた。この時点で怖さなど知る由も無い。

猫は変わらず結果を出し続けた。

商店街、民家へ臆することなく忍び込み、一瞬の隙をついては獲物を蓄積させて行く。やがて、三毛猫から引き継がれたターゲットに加え、自ら収穫を狙える場所を開拓して行った。

初の獲物を掴んだあの日から半年が経過した。

今や、集落の長である黒猫にも一目置かれる存在となっていた。

黒猫を中心とした集落の輪がばらばらとほどける。猫がいつも通りターゲットの元へ駆けて行った、あくる日の事だった。



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