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自分の中で大流行りしてる漫画「水は海に向かって流れる」

ハマってるとはいえ、既に完結済みの全三巻。
2019〜2020年に別冊少年マガジンで連載した作品だ。
毎日読み返しては作中登場するグルメ「ポトラッチ丼」を作ってみるなど満喫している。(検索すると同じ事をしている人達の記事がヒットする。
「私財を投げ打って上等な牛肉を買い、普通の玉ねぎと普通のめんつゆで暴力的に煮つけたもの」)

あらすじは、
高校進学を機に叔父の家に居候し始めた主人公の直達。シェアハウスには他に三人の同居人がいて、26歳のOL榊さんは昔主人公の父親とW不倫していた女性の娘だった。
W不倫した親の子供同士が出会い、主人公は知らなかった家族の事を知り始める。そんな話だ。

この漫画の好きな所は、W不倫というヘビーな題材にしっかりフォーカスしつつ空気は穏やかで、随所に入ってくるギャグでさらに肩の力が抜けてしまう所。
前作の「子供はわかってあげない」にも共通する所で、
大変なことが起こったが、さて、どうしよう。
そんなスタンスを感じる。
焦ってもしょうがなくて、どうするかは自分次第。この作者の漫画はそんなことを思い出させてくれるから好きだ。

なぜ前作の「子供はわかってあげない」ではなく今作にハマっているのかというと、
・自分の父も長年愛人がいたがそれを今でも隠されている事が主人公の状況と重なった。
・榊さんと同い歳で淡々と日々を過ごす同じくOL。
主人公たちに共感しながら読みやすかった。
昔はそんな事もあったけど、今は両親とても仲睦まじいからまあいいか。と思っている。
苦い思い出は沢山あるが…。

また、キャラクターの言動は物語を面白くするための装置というより思考や人格に現実味を感じる所も好きだ。
面白味があってドラマチックな台詞より、現実にこんな出来事があったら大人(榊さん)は子供(直達)にこう接するだろうな、という言動が多い。
だから自身の体験と重ねて違和感なく読みやすかった。

私は美大出身で、学生時代は自然と興味を惹かれるものからテーマを見つけ、自分が現代においてこれを作る意味を考えて作る、といった形で制作をしてた。(今はもっとラフに構えて好きに漫画を描いている。あと仕事)
この漫画は作者の思考や人生観をいい意味であまり飾らず書き出しているように感じた所がとても好きになった。セリフの端々やコマ割りから、この漫画が作者の芯から削り出されてきたテーマで描かれているように感じた。
丹念に取材やリサーチをして色濃く描かれたフィクションではなく、当事者だからこそ一歩引いて達観して描けるフィクション。そんな印象だ。

大学生時代、自分の目を引く現代アートはセンセーショナルなテーマが多かった。そういったものを目にしながら自分の中で作品になるテーマを見つけようとする時、それをいかにもセンセーショナルに見せて作品にしようする思考回路がいつも頭の片隅を支配していた。
だけど上手く行かないからもっと抽象化したテーマで作品を作って、言語化で苦戦する。そんな事の繰り返しだった。
大変な事が起こったとして、大切なのはそれからどうするかだ。起こってしまったが、どうしよう?そんな事を考える時はきっと肩の力を抜いていた方が自分に合っている。この作品のように、そんなスタンスで制作したいと思った。

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