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シェア街っていったい、何を目指しているんだろう? 発足1年、主宰の柚木理雄さんが語る「自律分散型コミュニティ」とは

「シェア街っていったい、何を目指しているんだろう?」。発足して1年が経ちましたが、改めて考えると、一言で言い表すのはなかなかに難しそうです。主宰の柚木埋雄さんに聞いてみると、「僕はもともと、自律分散型の社会をつくりたいなと思っていたんです」。自律……分散……って何?住民ライターの空峯千代さんが、じっくり聞いてみました。

正しいやり方で描かなかったというだけで怒られなければいけないということが僕にはよく分からなかった

本日はお時間をいただき、ありがとうございました。今回は、シェア街を通じて何をやろうと思ったのか、そう考えるに至ったきっかけは何だったのか、などについて改めて柚木さんにじっくりお話をうかがいたいと思ったのですが、そもそもの起点は何だったのでしょうか。

僕はもともと自律分散型の社会をつくりたいなと思っていて。
「自律分散型社会をつくることは、多様性を尊重することに繋がる」と思っていることが根底にあるんですね。
そう考えるようになったきっかけは後ほど話すとして、まず僕の考える自律分散型のコミュニティについて説明します。

今、世の中にはいろんなコミュニティがありますが、基本的に、オンラインサロンなどのように1人の人の下に集まっているコミュニティか、もしくは、一つの目的の下に集まっているコミュニティか、どちらかのコミュニティしかないんじゃないか、と思っています。
僕がつくりたいコミュニティはどちらでもありません。
自分が中心になっているんじゃなくて、いろんな人が中心になっていて、いろんな目標があるもの。いろんなコミュニティが集まっていて、ひとつのコミュニティになっている。そういうものがつくれたらいいなと思っています。

例えば、シェア街のオンラインきょてんとして、「コミュニティ」という存在について研究する「コミュニティラボ」というものがあります。
コミュニティに興味のある人や、コミュニティを自分でつくりたい人、学びたい人が集う場ですが、「コミュニティ」について考えることを動機付けとして、楽しんでもらえるような場になればいいな、と思っています。

一方、つよぽんさんがやっている「dentou庵」というオンラインきょてんは、日本の伝統をテーマとして活動しています。
伝統に興味があり、日本の伝統について勉強したい、知りたいという気持ちで入ってきてくれているのではないか、と思います。

そのような形で、シェア街の中にはたくさんのオンラインきょてんがあって、それぞれに中心メンバーたちがいて、自分たちが楽しみたいと思う事柄について自主的に活動しています。

それでは改めて聞きますが、「自律分散型の社会をつくりたいな」と思ったきっかけは何だったのでしょう?

僕はもともと小学1~3年にブラジルにいて、なんでもチャレンジできる環境で育ってきたんです。
例えば、小学1年でも跳び箱8段にチャレンジしてよかったし、水泳は何メートルまでしか泳いじゃいけない、なんてこともなかった。
絵を描こうとすれば、自分で自由に表現していいし。勉強でも大学入試の問題を解いてもよかった。
ブラジルでは、年齢的には子供でも、1人の大人として扱ってもらえている感覚があったんです。
でも、日本に帰ってきた時、「1人の大人として扱ってもらえている」というよりは、「子供」というカテゴリーでしか扱ってもらえなかった。
だから、尊重してもらえている感覚がありませんでした。

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その当時、印象に残っているエピソードがあります。
アメリカから帰ってきた子がいて、下書きをせずに絵を描いていたんですね。そうすると先生がすごく怒って。
なんで怒ったかというと、学校では下書きをして絵を描くことが正しい描き方だと指導していたから。
その子は帰国したばかりだったから知らなかったんだろうと思うけれど、その描き方どおりに描かなかったから先生は怒っていて。
ただ、その子としてはすごくいい絵を描いているんですよ。
けれど、正しいやり方で描かなかったというだけで怒られなければいけないということが、僕にはよく分からなかったんです。
みんな一律の正しいやりかたを教えてみんなそのとおりにやらないといけない。
そのことによってたしかにみんな、平均的にできるようにはなるけれど、その正しいやり方以外のやり方を考える余地がなくなってしまうんじゃないかな、と思いました。
ちなみにその子はのちに画家になっていて、(シェア街の中心のリアルきょてんであるゲストハウスの)Little Japanに絵を飾っています。

確かに、私も子供の頃は、ルールで押し込められている感覚がしていました。

大学に入学してからは日本から出られるようになって、海外に行くようになりました。
旅行したりフランスに留学したり。日本でも、ゲストハウスでアルバイトをしたりしていました。
そのまま将来は海外で働こうと思っていたけれど、ふと思ったときに「日本が嫌いだと思ったから海外に行きたかっただけで、どこか行きたい国があったわけじゃなかった」ということに気づいたんです。日本にもいいところはたくさんあって、嫌いなことから逃げるのはすごく格好悪いな、と思いました。
だから、日本の嫌なところを変えたいと思って、そのためにはどこに入ればいいかなと考えた結果、国家公務員になろうと思ったんですよね。

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多様で活力があってバラバラな地方がたくさんあって、その集合体が日本だという形態になればいい

公務員という日本のルールを意識せざるをえない職業に就いてから、葛藤はありましたか?

ありましたよ。
公務員として働くようになってからは、どうすれば日本の問題を解決できるようになるかを考えるようになりました。
そこでわかったことは、日本は国が決めていることが多く、中央集権的だということ。
それから、国が決める割合が多いと一律のルールしか作れない、ということですね。
国が決めてしまうと1億人以上が対象になってしまうので、その人達全体を見ないといけない。
一律のルールを作るとなると、民間企業とちがって顧客も選べないので、どうしても個性を尊重できないようなルールになってしまう。
そこに、構造的な要因があるんじゃないかなと。

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じゃあ、どうやったら個性を尊重できるようになるかを考えていったときに、国が決める割合を減らして、そこにいる人に合わせた場所がたくさんできれば、多様性が尊重できるようになるんじゃないかと気づきました。
それを言い換えると、「自律分散型社会」ということになります。

日本では、都市部にたくさん人が集まる一方、地方はたくさん人が減っている。
自律分散型のネックになる部分はどこだろう、と考えた時に、足りないのは「制度が変わったとしても、それを受ける側の人がいない」ということだと思いあたりました。
中央集権制に慣れているから、自分で考えて自分でつくりたい場所を作るプレーヤー側の人が圧倒的に不足しているんじゃないかと。
プラットフォームにいてそれを眺めているだけじゃなくて、自分自身もプレーヤーの1人になる必要があるんじゃないかな、と考えて、起業したり、大学の授業をしたりしています。まあ、何になったか、と言うと、宿屋のおやじさんですよね(笑)。
僕が大事だと思っているのはプレーヤー側の人。宿屋のおやじさんとかカフェの経営者とか農業やってる人とか。価値を実際につくってる人が増えないことには変わっていかない。

政府があって全国一律のルールがあって、というのが今の日本かもしれません。
でも僕はそれが、「多様で活力があってバラバラな地方がたくさんあって、その集合体が日本だ」という形態になればいいな、と思っています。

なるほど。前から何かしらの想いがあってゲストハウスの名前が「Little Japan」(小さな日本)なのかなって考えてました。

すごく大それた名前ですよね(笑)。この名前は、「この場所で小さな日本を感じてもらいたい」という意味なんです。

東京の浅草橋でこのゲストハウスを始める時、「8~9割くらいは海外の方になるだろうから、日本人の集客も頑張ろう」と決めていました。
なぜかというと、「日本人がいて外国人もいる」という環境を作りたかったんですよね。
それが、「小さな日本を感じてもらいたい」ということに繋がっています。

そして、自分がプレーヤーとなった後、ホステルライフというサービスを始めました。
ホステルライフは、月1.5万円から、という「ホステルパス」を持つことで、全国のホステルに泊まり放題になるサブスクリプションサービスになります。

国は当時、「地方の人口を増やそう」という戦略でしたが、全体的に人口が減っているからどこの自治体も増やせていなくて。
なら僕は、内訳が減っていくのならば、複数の人がいろんなところに関わる状態になるのがいいんじゃないか、と思いました。
いきなり移住するのはハードルが高いから、2拠点や多拠点という形をつくろうと思って、できたのがホステルライフです。
「東京で働きながら地方でプレーヤーになる」ということが実現できればいいな、と思って考えました。
昨年から始めた「シェア街」になぞらえて言うならば、「複数の拠点があったとしてもオンラインで関われればいい」ということですね。

あと、中央大学商学部で特任准教授をやっていますが、なぜやっているかと言えば、大学生はまさに社会に出ていく段階なので、講義を通じてこれから地域に関わるプレイヤーが少しでも増えればいいな、という思いがあります。

学生たちはいきなり起業してもいいし、副業をやってもいい。大企業に進んでも、公務員になってもいい。いろんな関わり方で地域に関わるプレイヤーを増やせるチャンスがある、ととらえました。
今やっていることは基本的に、地域に関わる人を増やすことに全部つながっていて、さらに自律分散型の社会、すなわち、多様性が尊重できる社会へとつながるよう、いろいろな立場からアプローチしています。

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僕が目指すのは、「どうやったら核になるものがたくさんできるか」

柚木さんの活動を見ていると、とても生き生きしてるように感じます。今後やっていきたいことはありますか?

シェア街で言えば、街の中で小さな自律分散型の社会をつくりたいですね。
個人的には、先ほどお話ししたコミュニティラボの活動に力を入れていきたいです。
コミュニティに興味がない人には無理に興味を持ってもらう必要はないのですが、興味がある人達にとっては価値があるきょてんにできれば、と思っています。
この記事もそうですが、シェア街について紹介する「シェア街メディア」の記事をつくっている「メディア編集部」というオンラインきょてんも、単に記事をつくるだけではなく、「メディア系コミュニティ」という形で発展してもらえるとおもしろいと思っています。

シェア街の参加者を増やすことを考えると、もしかしたら名前を「シェア街」から「コミュニティラボ」に変えて、「コミュニティに興味ある人あつまれ!」って呼びかけた方が早いかもしれない、と思うんですよね。
もしくは、「コミュニティの学校」とかにした方がいいと思うんですよ。
その方がわかりやすいし、提供する価値も示しやすい。
でも、それを自分はやりたくないんですね。

そうしてしまうと、僕が中心にいることになるし、提供できる価値もコミュニティ一つだけになってしまう。
僕が目指すのは、「どうやったら核になるものがたくさんできるか」なので、実はシェア街では自分はあえて、中心的なポジションにはいないように意識しています。
シェア街ではいろんな人がイベントを主催してくれていますが、それらのイベントは僕がいなくても盛り上がっているし、仮に僕がそのイベントにいるとしても、仕事として来ているわけではなくて、ただ興味があって面白そうだから参加しようと思って来ているだけなんですよ。
自分も参加者として面白いと思ったものに出向くので、自分の興味のあるコミュニティに関しては「自分でつくりたい」と思って取り組んでいます。

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シェア街は今後変わることはあるかもしれないけど、変わったとしてもいい雰囲気になる気がしている

シェア街はみんなが意欲的で、上下関係がない一方、横のつながりがありますよね。

集まってくれている人がいい人ばっかりで、そこに助けられてる部分はあると思いますね。
なによりシンプルに、一緒にいて楽しい人が多いです。
何をするにも一緒に遊ぶ人が楽しくないと、つまらないじゃないですか。
どのイベントも、コンテンツ自体は何が起きるか知らなくても、「おもしろそうな人が来ていて楽しそうだな」と思いますね。

今のシェア街はとてもいい雰囲気だと僕は思っています。
ただ、この先を考えると、さらに参加人数が増えた時にどういう雰囲気になっていくのか、というのは課題かもしれません。
でも僕は、シェア街は今後、変わることはあるかもしれないけど、変わったとしてもいい雰囲気になる気がしているんです。

【クレジット】
編集:Atsushi Nagata Twitter / Note / Youtube
執筆:空峯千代
写真:提供写真


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