打ち上げ花火、「過去」から打つか?「現在」から撃つか?「未来」から打つか?

自分たちの思想や行動を支える力の源(某カードゲームに則って、以後「マナソース」と呼ぶ)をどこに見出すべきか、というのは人類の永遠なる課題のひとつである。

何を自分たちのマナソースにするかにおいては、いろいろな切り口がある。時間軸という観点からいえば、「過去」「現在」「未来」のどれか、もしくはそのハイブリッドということになるだろう。

伝統や歴史に則れば「過去」をベースにした運動になるし、「現代」に焦点を当てれば問題解決的なアプローチに、「未来」を基点に物事を捉えていけばビジョナリーな活動ということになる。どれもそれぞれの特徴があり、うまく使うことができれば大きな成果を生み出してくれるはずだ。

ただ先日、『大衆の反逆』を読んであらためて思ったのだが、この現代社会というメタゲームにおいて、マナソースとしての「過去」はちょっと傍流に来ているかなと思う。

この本を簡単にまとめると、ヨーロッパ人がもはや「過去」に敬意を払わなくなり、「現在」に満足してしまっているせいで、「未来」への指針が見えずめちゃくちゃになっている(=大衆の反逆が起きている)ことを嘆いているのだが、これは現代社会においても結構当てはまる。マナソースとして見たときの「過去」は、文字通りオワコン化しているとまでは言わないものの、なかなか微妙なポジションにいる。

たしかに「過去」をマナソースとして見た運動が、これまで実り豊かな文化を築き上げてきたのは事実だ。ルネッサンス(文化復興運動)はその際たるものだし、宗教しかりナショナリズムしかり、「昔は良かった」系の思想運動の例は枚挙にいとまがない。それは人間が「失われたもの」に対してセンシティブであり、それを取り戻そうとする力が働くからなのだろう。

だが現実を見ると、今のメタゲームでは、「現代」の課題に焦点を当てる問題解決アプローチか、「未来」を妄想した果てにあるビジョナリーアプローチがTier 1(=主流)だ。今もTier 1にいる「現在」「未来」系の思想運動に対するカウンターカルチャーとしてなら、「過去」ベースの思想運動はまだ機能するだろうが、それ自体がTier1になるかというとかなり疑問である。

それは『大衆の反逆』で指摘されているように、「過去を克服した」という意識が現代人のなかにあるからかもしれない。人間は問題を見つけるのが得意な生き物であり、どんなに文明が発達しようが不平不満の種を見つけてくるものだが、それでも「現在」と「過去」を比べたとき、多くの点で「現在のほうが優れている」という意識が働いてしまうのは自然だろう。なにせ今日私たちが親しんでいるテクノロジーの大半は過去になかったものだし、人権などソフト面に関することについても、総合的に見ればだいぶアップデートしているはずだ。『FACTFULNESS』にもそんなことが書かれていた。

また、「昔は良かった」「昔はこうだった」系の言説の論拠が、かなり崩されやすくなっているのも一因かもしれない。「ディープフェイク全盛期の時代に何を言っているのか」という意見もあるだろうが、データベースの充実や集合知の発揮しやすい環境により、史実的な検証がやりやすくなったのは間違いないはずだ。「昔はこうだった(はず)」系言論の対策をすること自体は、比較的容易になったと言ってもいいだろう。

さらに、「過去」系のアプローチで動員できる人の数と種類が、「現在」「未来」軸のものに比べて少なくなっていることも考えられる。多くの力を得たいのであれば、できるだけ多くの人を巻き込むのが王道なわけだが、「過去」にはもはや多種多様なバックグラウンドから構成される人々を巻き込むほどの力がなさそうだ。どうしても「過去」をマナソースにしようとすると、文脈依存的になりやすいし、その対象が限られる(e.g. 特定の民族や信仰)ケースも多い。それなら「現代」の課題や「未来」の展望をマナソースにしたほうが、いろんな人を巻き込みやすそうである。

ようするに、マナソースとして「過去」を考えると、いろんな意味でちょっとスキがでかいので、現代社会では「現在」「未来」に力点を置いた思想運動のほうが強そうだなと。権威付けという観点からいえば、「過去」はいまでも十分に強いマナソースたりえる(この間生まれたような企業や宗教が、かつての文化文明との連続性をうたうのはそれが理由である)のだけども。

こういう感じで現代のトピックをゲーム的に考えるのに最近ハマっている、「過去」デッキ、「現在」デッキ、「未来」デッキみたいな感じのものをつくって、メタゲームとか考えながら戦わせたい。

(追記)上記のような話は西洋先進諸国とか日本(の一部)だけの話であって、いまもバリバリ「過去」が強い環境もあるというご指摘をいただいた。たしかにそのとおりである。上記はあくまでリミテッド環境のものだということをご理解いただければ幸いだ。

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