マハーバーラタ/3-1.カーミャカの森

3.森の章

3-1.カーミャカの森

第一章(始まりの章)あらすじはこちら
第二章(サバーの章)あらすじはこちら

森へ追放されたパーンダヴァ達。
彼らは早々に旅を始めた。ユディシュティラは一刻も早く忌々しい記憶のハスティナープラから離れたがっているようだった。

まず最初に向かったのはガンジス河の畔にあるプラマーナヴァタと呼ばれる小さな雑木林だった。そこで最初の夜を過ごすことにした。
食べ物を持っていなかった彼らはガンジス河の水でお腹を満たした。それしかなかった。
昼間の出来事で心も体も疲れ切っていた彼らは木の下で夜を明かした。
これが追放の第一日目の夜であった。

数人のブラーフマナ達が強引に追放の旅に付いてきていた。彼らも一緒にプラマーナヴァタで夜を明かした。 

朝になり、ユディシュティラは改めて彼らに帰るようお願いした。
「いいですか、私達は12年間森に追放されたのです。何も持っていません。これから食べ物になる果実や根などを探さなければならないのです。申し訳ないが私達に付いてきてもあなた達を満足させることはできない。どうか町に戻ってください」
「いえ、何があろうと、何もなかろうと、私達はあなたに付いていきます。ハスティナープラへ帰る気はありません」
彼らに食べ物を与えることができないユディシュティラは弟達やダウミャに相談した。ダウミャが提案した。
「太陽は食べ物の神です。太陽神を称えて助けを求めて祈るならきっとあなたに恵みを与えてくれるでしょう」

ユディシュティラは集中し、太陽神に祈った。
何も口にせず、寝ずに祈りを捧げた。

その姿に喜んだ太陽神は人の姿を装って目の前に現れた。
「あなたのことが気に入りました。自分の為ではなく、他の者達を満足させたいというあなたの願望を叶える為のその苦行は素晴らしいものです。
これから12年間、あなた達が必要とする食べ物を与えます。この銅の器を持って行きなさい。
ドラウパディーがその器から食べ物を取り分けようとする時、彼女が必要とする分だけその器は食べ物で満たされるでしょう」
ユディシュティラは感謝してその器を受け取った。

その出来事を皆に報告した。
「もう大丈夫です。この器があれば私達を慕って付いてきてくれているブラーフマナ達をもてなすことができます」
彼らは次にカーミャカと呼ばれる森へ向かうことにした。

その頃、ドゥリタラーシュトラは自分のしてしまった過ちによって悲嘆にくれる日々を過ごしていた。
彼はそのつらさをヴィドゥラに話した。
「目が見えなくても分かる。誰もが私を軽蔑し、嫌悪の目を向けている。町の者達も、王宮の者達も誰一人私を愛してくれない。つらいのだ、どうか慰めの言葉をくれないか」
「兄よ、私が提案できることはたった一つです。きっとあなたが気に入らない提案です。慰めの言葉が欲しいというのであれば、それを話しましょう。
自らの罪に悔やんでいるなら、パーンダヴァ達をここへ呼び、仲直りするのです。もちろん彼らの王国は返すのです。
あなたは甥達にしてしまったことを後悔しているのでしょう? 悔い改めて罪を償うのです。あなたにはそれができます。シャクニがあなたをそそのかして手に入れたものをパーンダヴァ達に返すなら、つまり、王国を返すならあなたには永遠の名声がもたらされるでしょう。
逆に、それをしないなら、あなたの息子達全員の死に直面する覚悟をするべきです。
彼らは誓いました。彼らの誓いは単なる言葉ではありません。間違いなく現実のものとなります。今ならまだこれから起きる悲劇を避けることができるのです。そうすべきです。
ユディシュティラは決して不平を抱かない人です。あなたが後悔していることを伝えればきっと弟達の中にある憎しみを手放させてくれるでしょう。それしかありません。
息子達への愛を手放すのです。あなたの愛は不健全なものですから」

「息子への愛を手放せと? そんなことできるわけがないだろう。
私はあなたに慰めの言葉を求めたのに、なぜそんな傷付けることを言うのだ?
もういい! 出ていけ! 私の元を去ってもいいし、留まってもいい。好きにすればいい! お前が共感できる者の所へ行けばいい。これ以上あなたの助けは要らない」
王はヴィドゥラを残して部屋から出ていった。

ヴィドゥラはそれからは慰めの言葉をかけるのはやめた。
ハスティナープラから離れ、パーンダヴァ達の所へ行こうと決心した。

パーンダヴァ達はドリシャドヴァティー川を渡り、ヤムナー河に出た。さらに西へ向かい、サラスヴァティー河の近くにあるカーミャカの森へたどり着いた。この森でしばらく過ごすことにした。

この森にいる時にヴィドゥラがやってきた。
彼には御者も、お付きの人もおらず、一人でここまでたどり着いた。
パーンダヴァ達はブラーフマナ達や森の住人達に囲まれていた。
ユディシュティラはヴィドゥラがこちらに向かってくるを見た。
「あれはヴィドゥラ叔父さんじゃないか、なぜここへ? まさかまたシャクニの入れ知恵でサイコロゲームのお誘いをしにきたのだろうか。
もしくはドゥルヨーダナからの戦争の宣戦布告だろうか。それならビーマ、あなたは喜ぶだろうし、アルジュナの弓も出番を喜ぶだろうね。
何を伝えに来たのか、聞いてみることにしよう」

ヴィドゥラは森にいるパーンダヴァ達の姿を見て悲しみに打ちひしがれた。
ユディシュティラは彼をなだめた。
ヴィドゥラは兄王との間で生じた意見の相違を話した。
「・・・そして、『お前が共感できる者の所へ行けばいい。これ以上あなたの助けは要らない』と言われました。ですから、ユディシュティラ、あなたの元へ来たのです」
ユディシュティラはパーンダヴァ兄弟に対する彼の愛情に感動し、一緒に過ごすことにした。

一方その頃、ドゥリタラーシュトラ王はヴィドゥラなしに生きるのが難しいことを実感していた。息子以外で唯一愛せる相手、それがヴィドゥラであった。いつも彼との時間は小言を聞く時間であったが、それでも彼はその時間が幸せであった。
ヴィドゥラが人の姿をしたダルマであることを知っていた。不純で歪んだ性質を持つ者にとって、彼のような良い性質は魅力的であり、いつも近くにいたいと思わせる力を持っていた。
ドゥリタラーシュトラは御者サンジャヤに命じて、ヴィドゥラに帰ってくるよう伝言を送った。

パーンダヴァ達の所へ到着したサンジャヤは王の願いを伝えた。
王の失言を許し、ハスティナープラへ戻ってくることを望んでいるとヴィドゥラに話した。
何とも痛ましい伝言であった。
ヴィドゥラは兄ドゥリタラーシュトラの生まれ持った欠点や卑しさも全て含めて愛していた。
結局彼はパーンダヴァ兄弟の元を離れ、ハスティナープラの兄の元へ帰っていった。

(次へ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?