マハーバーラタ/4-6.ラーデーヤの夢

4-6.ラーデーヤの夢

ローマシャがインドラからのメッセージをユディシュティラへ伝えた時、彼だけに伝えたことがあった。
『いつもあなたの考えの中にある恐ろしい現実のことは、私も知っている。ラーデーヤのことだ。残念ながら確かに彼ならアルジュナを殺すことができるだろう。バールガヴァの弟子で、アルジュナを超える弓の腕前を持つ。アルジュナが地上に戻った後、私も見守っておくことにしよう」
ユディシュティラはそれを誰にも話さなかった。
そしてインドラはラーデーヤの力を奪う為に手を打つことを決心した。

パーンダヴァ達の追放13年目の時であった。
雪よりも白いベッドでラーデーヤが眠っていると、太陽神が不幸な息子に会う為に夢の中に現れた。彼はブラーフマナの服装をしていた。
「ラーデーヤ、聞くのだ。あなたほど善良で正直な者はいない。人の願いを叶えること、与えることに関して誓いを立てていることは天界にまで届いている。太陽を礼拝する間にあなたの元を訪れた人の願いに決して『いいえ』と言わないことはとても素晴らしいことだ。
しかし、明日インドラがブラーフマナに変装してあなたの所に来るだろう。彼はパーンダヴァ兄弟の幸運を祈る者だ。きっとあなたのカヴァチャ(鎧)とクンダラ(イヤリング)が欲しいと言うだろう。
決してそれらを渡してはならない。クンダラはアーディティ(太陽)から受け取ったある人によって、特別なお守りとしてあなたに与えられたのだ。それが誰であるかは残念ながら教えることはできない。
クンダラはあなたの命を守っているのだ。それがあなたの耳から離れた時、あなたの命は普通の人間と同じになり、残り僅かしか生きられなくなる。
そしてあなたの肉体と一体になっているそのカヴァチャは決して打ち破られることのない鎧だ。その鎧を身に着けている限りあなたは不死身なのだ。
他のどんなものを差し出したとしても、たとえあなたの国を捧げることになったとしても、その二つは決して手放してはならない。
あなたがその二つを身に着けている限り、あなたは世界最強の戦士だ。しかし、あなたの体から離れたなら、あなたは打ち負かされ、殺されることになるだろう。
よいか、自分の命が大事ならそれらを守らなければならない。よく覚えておくのだ」

「あなたは私のことをとても愛してくれているのですね。心遣いに感謝します。明日起きることを伝えられるなんて、あなたは普通のブラーフマナではないですね。一体誰ですか?
私をそれほどまでに愛してくれた人はこれまでに二人しかいませんでした。
一人は母ラーダー。この広い世界の中で彼女ほど愛情を与えれてくれた人はいません。私は彼女の為に、この痛みに満ちた世界を生きているのです。
もう一人はドゥルヨーダナ。彼も私を愛してくれています。私も生き続けて彼を喜ばせたい。彼を喜ばせることに比べたら私の命なんて大した魅力はありません。
そして私の目の前に現れたあなた。私に対してそれほどまでの愛を与えてくれてるあなたが三人目です。あなたが一体誰なのか、知りたいのです」

「私はスーリヤ。無数の光線を放つ太陽と呼ばれている。あなたが敵によって欺かれるのを放っておけないので、世界が眠りについている時にやってきた。あなたには生きてほしいので忠告しているのだ。どうか言う通りにしてほしい」

ラーデーヤは彼の足元にひれ伏した。
「おお! スーリヤ神!! 私はあなたをイシュタデーヴァター(好みの神)として、ずっとあなただけを崇めてきました。人の姿を装ったあなたに会えるなんて幸運なことです。
インドラが私にしようとしていることを警告してくれているのですね。あなたは私の幸運を祈ってくれるのですね。
そうです。カヴァチャとクンダラは私の命そのものです。このお守りを手放さないようにということですね。
あなたは私の毎日の祈りを見てくれていたでしょう。毎日、あなたが天頂に来た時、私はあなたを崇め、私からの施し物を求める者を待ち、全て叶えてきました。
スータプットラという汚名を着せられた時からこの誓いを始め、何年もこれを続けてきました。絶え間ない努力によって知識、名声、恩恵を手に入れることを宣言しました。最も優れた弓使いバールガヴァから技術も学びました。
結局はスータプットラであるという事実を消すことはできず、無益ではありましたが、私に多くの恩恵をもたらしました。長い間味わうことのできなかった幸せを与えてくれたのです。
何かを与える時、幸せです。それが大切なものであればあるほど、それを手放した時、より大きな幸せがあります。
頼まれるなら、私の命でさえ手放す準備があります。
明日インドラがやってきて、パーンダヴァ達の利益になるものを、まさに命と呼べるものを頼まれたなら、私は断るでしょうか? いいえ、断らないでしょう。
私は決してこの命を愛してきませんでした。それを手放すことになったとしても構いません。
神よ、私が求めるものはただひとつ、名声です。
長く生き延びることと、つまり命よりも大事なことです。
インドラが欲しいものを断るなら、名声が死んでしまいます。
”与える者”ラーデーヤの名声が直ちに死ぬのです。
この肉体が長く生きたとしても、それと同時に不名誉も長く生きるのです。
名誉ある死は、不名誉な長寿よりも望ましいものです。
神の中の神であり、ヴリトラの破壊者であるインドラが、私の所へ来て何かを求めるなら、それを叶えることほど名誉なことがありましょうか?
インドラがパーンダヴァ兄弟を好んでいます。それは知っています。だから私の強さを奪おうとしているのかもしれません。なぜ彼らの味方するのか、それは気にしません。
私が知っていることは、インドラ神によって選ばれた標的が私であるということだけです。
私は既にいくつかの兆しを見ています。
それは常にアルジュナの成功と、ラーデーヤの敗北を示しています。
運命の陰謀は全て分かっています。私が勝てないことを知っています。それでも私は自らのダルマから逸れる気はないのです。
インドラが私に願い事をするなら、それを叶えることによって"与える者"ラーデーヤの名声が世界に生き残るのです。与える者の中でも最も偉大な願い事を叶えたという、私の栄光となるのです。
私が花嫁として選んだ女性が名声です。命よりも名声を愛します。名声を稼いだ人は天界へ行きます。汚名は破滅を意味します。
私は機会を見逃しません。
私はインドラに与えることで名声を稼ぎ、私の技術を使って戦争に臨み、愛する友のために敵を破壊します。私は戦って死に、天界へたどり着くでしょう。自分の命を犠牲にしても名声を守ります。
私はインドラが求めるものを与えます」

「ラーデーヤ、我が愛する者よ。
あなたには妻も子供もいる。ドゥルヨーダナを勝たせる為にあなたを頼りにしている友人がいる。彼らの幸せを見捨ててはならない。
あなたの言うようにすれば、間違いなく名声を得るだろう。しかしあなた自身が楽しむことができない名声など、何の役に立つのだ?
あなたが死んで肉体が焼かれて灰となった時、あなたの切望している名声ははどこへ届くのか。この世界に名前だけが残り、人々の称賛の声をあなたは聞くことはない。それが何の役に立つのか?
私はあなたをずっと愛してきた。あなたも私を愛してくれている。
この私達の愛の名のもとに、あなたに一つだけお願いしているのだ。あなたの愛しい命をパーンダヴァ達に捧げないでくれ。
あなたに迫ってきている死について考えると動揺してしまう。見えているが口にはできないのだ。
ただただお願いするしかできない。あなたを愛する神によって与えられたカヴァチャとクンダラは手放してはならない。
あなたの人生の中でアルジュナを倒すことが望みであろう?
その二つを持っていれば、手放さなければ、それを成し遂げることができるのだ。それらを持っているだけで、インドラも、ルッドラやヴィシュヌでさえもあなたを倒せないんだ。
アルジュナを倒したいと言う大望を叶えたいなら、あなたの愛するドゥルヨーダナを喜ばせたいなら、明日、インドラの願いを叶えてはならない」

ラーデーヤは太陽神からの愛に圧倒された。
「太陽よ、あなたは私が崇めてきた唯一の神です。
私は自分が何者なのか知りません。
父がいません。彼が誰なのか知りません。
母もいません。彼女は私が生まれてすぐに私を手放しました。私を愛してくれる母はいません。
あなたこそが私を愛おしく思ってくれる唯一の人です。私に対する愛情をもって警告をするために来てくれました。
しかし、どうか私を許してください。
私は死を恐れませんが、ただ一つ恐れるものがあります。それは嘘です。
自分自身に不誠実でいたくはありません。立てた誓いは守ります。ですから誰かが頼んだことは拒みません。命を捨てるように頼まれたとしても、そうします。明日インドラがそう頼むならそれを叶えます。
あなたのその愛の手で私を祝福してください。どうか私に永遠の名声を叶えてください」

「誰も正義の道からあなたを動かすことはできないのだな。ダルマをあきらめるくらいなら死を選ぶ者としてはユディシュティラがいるが、あなたの方がさらに優れている。あなたを誇りに思う。
インドラの願いを叶えてカヴァチャとクンダラを手放した後、もしインドラが何か願い事を聞いてきたなら、シャクティを求めなさい。カヴァチャの鎧を失ったあなたを補ってくれるでしょう」

太陽はラーデーヤの夢から消えた。
彼は眠りから目覚め、夢の追体験をしているうちに眠ることができなくなり、夜明けを待つことにした。

(次へ)

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