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妬む女の31文字。

3匹の レースだったと 知った亀
兎を嗤い 鼠を妬む


先日、童話『うさぎとかめ』に触れる機会があった。

足の速いうさぎとかけっこをすることになった
のろまなかめが、うさぎの油断により勝利する、
という例のあれ。

幼い頃の私なら、
ここから得られる教訓を
素直に受け止めたに違いない。

が、私からいつ素直さが剥がれ落ちたのか、
私の頭の中では別のストーリーが展開された。


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ゴール前、1位を確信した亀はさぞ喜んだろう。

「ひたむきさで僕の右に出るものは誰もいないのさ。
兎くんってば途中寝ちゃってたな。
あいつが大慌てでゴールに走ってくるのを
丘の頂上から眺めてやるんだ。あぁ楽しい気分」

ゆっくりと、でも確実に、ゴールに近づく亀。

頂上付近の、
狸くんや蛙くん、鼬さんやコオロギさんの姿が、
だんだん大きくなってきた。

「すごいぞ!」「君が誰より一番だ!」
そんな興奮気味な声と
期待していた通りの大きな拍手。

しかし
彼らは僕を、
見ていない。

微かな胸騒ぎ。

丘の頂上に辿り着いた時、亀は目にした。

地面にくたくたっと置かれた白いゴールテープと、
それに埋もれるほど小さな鼠くんの、
歓声に手を振って返す姿を。

亀は兎くんのことばかり気にして、
鼠くんの参加に今になって気づいたのだ。

啄木鳥さんが優勝インタビューを始め、
鼠くんはこう語った。

「ひたむきさで僕の右に出るものは誰もいません」

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私はいつも亀だ。

中学時代はピアノを習い、
それなりに弾ける自信があった。

けれどいつだって上には上がいる。

高校進学と同時に、
自分の無能さを思い知らされた。

どんなにメイクを練習したって
もともと美を兼ね備えている友達には
敵わない。

「ライバル」といえば聞こえはいいけど、
いつもこちらが劣るとなると、そうは思えない。

ちゃっかりした鼠はどこにだっていて、
亀である私はそれを羨望の眼差しで見ている。



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