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バレンタインデーの31文字。

その記憶 毎年かじってみるけれど
なくなることなく 苦くて甘い


バレンタインデーにチョコを渡す
という文化から離れて、
もう何年になるだろう。

「青春時代」と呼ばれる時代にも
人並みに恋はしていたし、
それなりにバレンタインデーというイベントを
楽しんでいた時期もあったはず。

けれど、
いくつになっても思い出されるのは、
もっともっと遠い過去のこと。
小学生時代にまで遡る。


小学5年生の頃、私には好きな人がいた。

片思いのその彼は、小顔のサッカー少年で、
ちょっとヤンチャな雰囲気があるところも、
当時の私にはカッコよく見えたものだった。

近所に住んでいて、
よくグループで遊んだりもしていた。

母親には「友達にあげる」と偽ってチョコを作り、
その中のひとつだけ、
特別豪華な飾りのついた箱を準備して、
本命チョコを、気持ちを込めて詰めた。
(たしかトリュフ3粒だったと記憶している)


翌日、放課後の昇降口で渡そうと決意して、
チョコを学校に持って行った。

しかし帰りの昇降口で待てど暮らせど、
彼の姿はなかった。

「今日も一緒に帰れると思ったのにな」


彼の家がどこかは知っている。
一度家に帰って、渡しに行くことだってできる。

そう悩みながら、一人帰宅した。

自分の部屋に入ると、まだ開けられていない
豪華で虚しい本命チョコが、私の目の前にある。

結局数十分悩んでも、
家にまで行って渡す勇気は出なかった。

自らチョコの箱を開けると、
目に飛び込んできたのは、悲惨な3粒のトリュフ。

ランドセルの中で激しく暴れたに違いない。
前日、慎ましく座っていたトリュフとは思えないほど、
まるで大脱走を試みたようなチョコたち。

なーんだ!
こんなことなら自分で開けて正解だった!
彼に見られなくてよかったよかった!
いただっきまーす!

そう思いながらチョコを一気に食べた。
母親に悟られないよう、箱も隠滅した。

でもどこか、これでよかったの?と思う自分もいた。


しばらくすると、外から聞こえてきた音。

ぽーん ぽーん ぽーん

彼が家の前でサッカーボールを壁相手に蹴る音だ。

外に出てみると、
いつもなら男友達も一緒にいることが多いのに、
この日は一人でボールを蹴っているのが見えた。

こんな時だけ、自分に都合よく考える私の脳みそ。

「ももも…もしかして、私のこと…待ってる?!?!」
(多分待ってない)

その瞬間襲い来る、
チョコを渡せなかった自分への物凄い後悔。


これが、毎年思い出される
私のバレンタインの記憶。




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