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【Focus】アントグループに「No」を突き付ける国務院金融委員会(アントグループのIPO延期 その背景)①

11月初旬に香港と上海の株式市場でIPO予定だったアリババ傘下のアントグループ(旧:アリ金融)ですが、11月2日に中国規制当局からアリババの創業者ジャックマー他、アント会長と最高経営責任者が召喚され面談の場が持たれ、その翌日IPOの手続きが停止されました。
この背景に何があったのか。 今回Focusとして、中国現地の記事及びジャックマーの基調講演の様子を捉えた動画から探ってまいります。
(筆者が引用&翻訳・要約)
(記載の内容は転載不可でお願いします)

■創業者ジャックマーの主張(20201024上海外灘金融サミットでの講演)
 上場予定の前月である10月下旬、アリババの創業者ジャックマーは中国の金融事業者向けに開かれた上海外灘金融サミットに招かれ、基調講演を実施した。
 その際にジャックマーが語ったことは、彼の考える新しい金融の在り方、そしてそれに対応する政府による監督管理のあるべき姿といった内容だった。(以下抜粋・意訳)

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「私たちにはいくつかの思考の習慣がある、例えば欧米先進国にあって中国にない『ギャップ』、これを埋めることを目標とすること等だ」
「しかし、私たちは所謂先進国の基準に合わせてどのようなギャップを埋めるべきかを考えるのではなく、どのように『未来の基準』に合わせ、どのように未来のギャップを補えばいいか、どのような体系を作るべきかを考え、その上で先進国がどうしているかを見るべきではないだろうか?」
「昨今、『バーゼル合意』によるリスクコントロールはますます重視され、リスク管理の標準となっているがこれは最早古い枠組みとなっている。 『若者や発展途上国のチャンスはどこにあるのか』ということが今日の世界の多くの問題の根源なのに、バーゼルに基づく考え方・スタンスはリスク管理を重視するだけで、発展について語られることがない」
「中国も管理(問題に対する処理)の力がとても強く、監督(発展の見守り)の力が不足している」
「良いイノベーションは監督管理を恐れないが、昨日の(過去の・古い)監督管理を恐れる」

■フィンテックに対する厳しい監督管理の幕開け(20201031国務院金融委員会会議)
 ジャックマーが講演を行った後、中国国務院(日本での国会)で金融委員会による会議が開催された、その議場で主に議論されたのはアントグループを大いに意識したと思われることであった。
 「現在のフィンテックと金融イノベーションの急速な発展に対しては、金融発展と金融の安定性、金融の安全性の関係(バランス)を十分に考慮しなければならない」というトーンで始まるこの会議の議事録から、アントグループやジャックマーのサミットでの発言に対する政府の姿勢を読み解いていく。

国務院金融委員会会議

 ①の「国際的な合意とルール」は「バーゼルの監督管理の枠組み」を指しており、これはジャックマーが講演の中で「既に古いもの」と言及していたものだが、国務院金融委員会として、改めてバーゼルが金融に対する監督管理の核心であり、国際共通認識であるという見解を示した格好となる。
 ②のコメントから窺い知れるのは「監督対象は伝統的な金融活動のみならず、アントグループのようなイノベーティブな金融活動を営む組織も改めて規制に完全に組み込みに行く」というスタンス。
 ③については、杓子定規的に規制の対象とする企業を区分けしていくのではなく、その実態に合わせて区分けしていくスタンスを表明しているものであり、既存の形態とは違うアプローチで実質的に既存と同種の金融サービス(小口融資業務等)を提供するアントグループも、規制の対象とすることを暗示するコメントとなっている。
 アントグループは目下敵無しだが、政府は今般独占禁止関連の法律執行機能・権限を集中させた独占禁止局を設立した。 この局を通じ、アントグループに対しても毅然と独占禁止の調査を開始することを④は示している。
 ⑤では、今般アントグループが香港と上海の株式市場におけるダブルIPOを目指した中で、2,000億元以上の資金を調達する想定となっていたが、この調達に際しての以下の二つの課題を指摘しているものだと推察される。
1. 調達した資金をアントグループの信用貸付業務における資本ギャップ補填に使用する思惑が見 受けられ、これは本質的な調達資金の用途ではない(補填を自力で実施する必要がある)
2. 調達に当たり算出されたアントグループの評価額が過大な金額となっている可能性があり、 今般ネットを通じた小口融資業務・資金管理等に対する新規定が早晩施行される中、この規 定に即した上での再測定が必要
 最後の⑥だが、現在消費者はスマホでアントグループ関連のサービスを利用する際の個人情報の財産権を有せていない状況になる。 一方、これらのデータの取引はアントグループの事業の根幹を担っている。 よって、この不公平を是正する法の設置が求められることを訴えているコメントとなっている。
(以下②に続く)

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