中国知財 ネットワークシステムの域外適用を認めた特許権侵害訴訟判例日中比較
コロナの「第三波」がちょっと噂になっている北京です。6月に連日40度超えを経験してから、ほぼほぼマスク姿の方をみかけなくなっていたのですが、確かに最近マスクをしている人が多くなってきたような。。。といっても通勤ラッシュ時の地下鉄で、マスク着用率2割くらい、、、という感触ですが。
さてさて、2023年5月26日、日本では、ドワンゴvsFC2特許権侵害訴訟で域外適用(構成要素の一部、例えばサーバ、が海外にあるとき、所定の要件を満たすことにより、属地主義の例外として特許権の侵害を認める)に関する判決が出され、知財業界で注目を集めていました。
今月に入って、ようやく仕事が一段落したので、中国における域外適用を認めた判決と比較して、少し整理したいと思います。
一.ドワンゴvsFC2特許権侵害訴訟における知財高裁の判断
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/R4ne10046.pdf
こちらの訴訟については、既に多くの方が事務所HPなどで記事を執筆されているので、かなり省略しますが、特許法第2条第3項の(国内における)「実施」に該当するためには考慮されるための要件として、以下を例示しつつ総合考慮するとしています。括弧書きで、当該訴訟における判断を加えておきます。
1,行為の具体的態様
(米国サーバから国内ユーザ端末に送信、国内ユーザ端末が受信して行われ、送受信は一体として行われ、ユーザの受信によってシステムが完成する、よって送受信は国内でおこなわれたものと観念できる)
2,システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割
(国内のユーザ端末が、発明の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重な らない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている)
3,システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所
(コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という効果は国内で発現する)
4,その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響
(その国内における利用は、システムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得る)
二.深圳市东方之舟网络科技有限公司与深圳市帝盟网络科技有限公司侵害发明专利权纠纷における最高人民法院の判断
一方、中国では、深圳市东方之舟网络科技有限公司与深圳市帝盟网络科技有限公司侵害发明专利权纠纷二审民事判决书( (2020)最高法知民终746号 2021年5月25日)において、国際物流情報トラッキング方法に関する専利権侵害訴訟において、最高人民法院により域外適用の要件が判断されました。係争専利の請求項1は、以下のとおりです(内容については触れません)。
一种国际物流信息跟踪方法,其特征在于,所述方法包括以下步骤:步骤1:获取物流单号中的发件国家标识以及包裹类型标识;步骤2:根据所述发件国家标识以及包裹类型标识从规则库中获取第一物流信息查询方式;步骤3:从所述第一物流信息查询方式采集发件国家的物流信息;步骤4:获取所述发件国家的物流信息中的目的国家标识;步骤5:根据所述目的国家标识及所述包裹类型标识从所述规则库中获取第二物流信息查询方式;步骤6:从所述第二物流信息查询方式采集目的国家的物流信息;步骤7:将所述发件国家的物流信息与所述目的国家的物流数据进行组织输出或展示。
この事件において、被告は証拠を提出して、サーバ所在地が中国国外であるため、被疑侵害技術案の実際の操作地点は中国大陸ではなく、よって係争専利効力の地理範囲に属さない、と主張しました。
この主張に対し、最高人民法院は以下のように判断しました。
「まず、サーバ所在地は、侵害行為地を判断する要素の一つに過ぎず、唯一の要素ではない。侵害行為地には、侵害行為実施地と侵害結果発生地が含まれる。中国法律の保護を受ける専利権についていえば、専利権を侵害する行為の一部実質ポイント又は一部侵害結果が中国領域内で発生する場合、侵害行為地が中国領域内であると認定できる。したがって、侵害行為地を判断するとき、複数の考慮要素が存在し、サーバ所在地は、侵害行為を判断する要素の一つに過ぎない。指摘しなければならないこととして、サーバ所在地のみを基準に侵害行為地の判断を確定することには、一定の制限性がある。インターネットのグローバル通達とカバー特性は、ネットワークデータ伝送と交互に国際性を有することを決定し、じ、インターネットコンピュータプログラムの方法とシステム専利についていえば、データ媒体、即ち被疑侵害サイトサーバー所在地により被疑侵害行為実施地を確定すると、この種の専利権の保護範囲を深刻に制限してしまい、実質的にこの種の専利の侵害者は、極めて容易に侵害責任を避けることになり、最終的にこの種の専利権の法律保護が空となるので、上述の主張は不合理であり、サーバ所在地を被疑侵害工実施地の唯一又は核心的判断要素とすべきでない。」
→属地主義という文言は使っていませんが、サーバ所在地によって、侵害者が極めて容易に侵害責任を避けることができて、不合理だ、と考える点は日本と共通のように思います。最高人民法院は続けて以下のように判断しています。
「次に、上訴人の営業住所について、
上訴人は、中国大陸企業であり、本案における証拠もその住所が広東省深セン市であることを示し、これにより、被疑侵害サイトの経営住所も中国大陸であると推論できるので、被疑侵害サイトの運営主体も、中国大陸にいると認定できる。」
「さらに、被疑侵害サイト端末ユーザ所在地について、本案における証拠が示すように、被疑侵害サイトの大量のユーザは、国内ユーザであり、それらは被疑侵害サイトにログインする地点は中国大陸に位置し、よって被疑侵害技術案実施過程におけるトリガー地点は、中国大陸である。」
「最後に、被疑侵害サイトデータ伝送とインタラクション所在地について、被疑侵害サイトが提供する物流情報問合せサービスは国際物流に対するものであり、その中で相当部分の物流データは国内物流企業からのものであることから、関連データ伝送とインタラクションも、全て又は一部が中国大陸で発生している。」
「以上をまとめると、被疑侵害サイトと中国大陸は、地理意義的に多くの連接点を有し、これにより、被疑侵害技術案の実施地、すなわち被疑侵害行為の実施地は中国大陸であると認定できる」
三、日本の判例と中国の案例の比較
両方の事件における裁判所の判断を比較すると、日本は割と客体の性質にフォーカスしており、判断がのに対し、中国では侵害の主体にフォーカスしており、また相対的に照明が容易なように思えます。
少し無理やりかもしれませんが、以下のように両国の要件を、(1)運営者、受益者要件、(2)利用者、効果要件、(3)システム構成要件の三つに分類すると、割と整理しやすいかもしれません。
日本における判断要素
(1)運営者、受益者要件 その利用が特許権者の経済的利益に与える影響
(2)利用者、効果要件 発明の効果が得られる場所
(3)システム構成要件 国内に存在する要素が果たす機能・役割、行為の具体的態様
中国における判断要素
(1)運営者、受益者要件 被告の営業住所(サイト運営主体)
(2)利用者、効果要件 侵害サイトの端末ユーザ所在地
(3)システム構成要件 被疑侵害サイトデータ伝送とインタラクション所在地
例えば、まず(1)では、運営主体がが国内にいれば(中国)、利用により国内の特許権者の経済的利益に影響する場合が多いでしょうし(日本)、(2)では、端末ユーザが国内であれば(中国)、効果が得られる場所も国内になる(日本)ように思います。(3)では、中国はかなりシンプルにデータ伝送とインタラクションの全部又は一部(!)が中国大陸が国内であれば、としています。一方日本は、一体性や、国内に存在する要素が果たす機能・役割まで検討するので、より判断が慎重です。
こうやって比較すると、中国では、「運営者所在地は中国だし、多くのユーザも中国だし、データも中国で流れてるからいいじゃん」と流石人口の多い中国ならではの考え方が見えてくるようで興味深いですね。
日本は客観的に「国内で行われているんです!」を明らかにしようと頑張っていますが、これだと、例えば主要な機能が外国にあって、システム運営に携わる日本法人が利益を得ていない、、、ような場合は日本で訴えても域外適用を認めてもらえないことが考えられます。そのような場合だったら、主要機能を有する外国側で訴訟してよ、という国際調和を意識した考え方なのかもしれませんが、そうすると今度は、そのようなサーバに主要な機能がある発明を出願するときに、競争相手が主要機能を有するサーバをどの国に置くのか考えて外国出願しないといけないのか、という話になり、クラウド化してそもそも世界のどこでその機能が実施されるのか特定するのも難しい状況で、当初問題としていた「サーバ所在地を国外にすることにより、特許権を容易に回避できる」状況を解決することができたのだろうか?と考えると、なかなか悩ましいところです。
どうせ属地主義の原則の例外を認めるのであれば、システム構成要件にはあまり踏み込まず、中国のようにシンプルに認めて、その代わり差止めする範囲を日本からのアクセスに限定するとか、そういったやり方にしたほうが、権利者にとっては良かったのではないか、、などと考えてしまいました。
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